そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『東京クロノス』について

ネタバレ注意!

さて、今回紹介する作品はこちら、『東京クロノス』です。

TOKYO CHRONOS (PSVR専用)- PS4

『東京クロノス』とは、VR機器で遊べるサウンドノベルゲームです。『弟切草』や『ひぐらしになく頃に』のようなノベルゲー。それがバーチャル空間でできる。

最初聞いた時、バーチャル空間内でわざわざ文字を読むというのが、いまいちピンと来てなかったんですが。やってみたらかなり面白い。
VRゲームの新しい形を見ました。

今回はVRゲームの新しい形とネタバレありのストーリー解説に分けて語っていきます。

VRゲームの新しい形

この作品は、VRゲームとしての完成度が高い。僕らがバーチャル空間でゲームができると聞いた時に、期待したようなものが用意されているし、それ以上のこの手があったかと、膝を打つような機能が多い。
当ブログではこの点について3つにわけて話します。

文字のUIが視点に応じて変わる

まず、ゲームをはじめてビックリしたのが。文字のUIが視点に合わせて動くことですね。ミステリーで360度見渡せますから。何かあったら周囲を見回しながら進めるとですね。
キャラクターがしゃべったり、主人公が地の文を流すときにその文字がちょうど読みやすい位置に来てくれるんですよ。
この文字のUIが動くってことに感動する感覚はやってみないとわからないです。
プレイヤーが操作中に困るであろう小さな問題を解決してるところに驚いたあの感覚は。はじめてくら寿司に来たとき、食べたお皿をレーンの下に入れると、ガシャポンがまわせるってサービスを見たときを思い出しました。

360度見渡せる

そして、360度見渡せるバーチャル空間であること。これは当たり前なんですが。ミステリーというジャンルで、今回の舞台においてとても重要です。

このゲームでは、僕らは誰もいない渋谷に突然放り出され。わけもわからず探索しなければならない、という。不安感を煽る導入からはじまります。
これにより、渋谷が再現されている。本当に渋谷にいるみたい、という魅力もあるんですが。
この作品では、密室にいるという感覚が物語に緊迫感を与えています。

ホテルやファンシーショップ、書斎。そういった密室にいるって感覚がすごいリアルなんですよ。いろんな小道具もあるし、事件があったからといって、そこに集まったときのいい具合に人物がばらけているところもさ。エレベーターの中にいるような緊張感があります。
そこで、犯人は誰だ、どうしてこんなことになったとみんなで話し合ってるときに、この狭いなって感覚が、追い詰められたときにスゴイ手汗をかくくらい焦るんですよ。

そして、そういう緊迫感があるからこそ、外に出れたときに感動する。渋谷は少し水彩画みたいにホントっぽいんだけど、ちょっと景色がボヤけた感じだからさ。じつはリアルな渋谷じゃないんだけど、安心するんですね。

こうやって、外と密室をうまく使い分けることで物語にメリハリをつけています。

キャラクターの視線

さらに、肝となるのがキャラクターの視線です。このゲーム、集団のなかの個々人のキャラクターの表情が細かい。
しかも、そのキャラクターたちがリアルで僕らが話すときの距離感でしゃべる。
序盤、幼馴染の女の子がやたらと近い距離でしゃべってくるんですけど。ふだん異性と話してるときの距離感とは違いすぎてて、すごい怖いと思いましたよ。

そして、集団からの表情や視線の変化もすごい。
なにかものが落ちてきたとか、音がするねとか、あの掲示板をみてとか。
そういうときの気づいたキャラがいっせいにあっち向いたから見るってときの感覚はすごい一体感がありますよ。
集団で話していくときの表情の変化も見どころです。
そもそも東京クロノスって、いわゆる脱出手段が壊された閉ざされた山荘のなかで、事件が起きたから謎を解こうみたいなはなしなんです。
だからこそ、集まって話し合うみたいな場面もあるんですが。話の流れに応じて、それぞれのキャラクターがいろんな表情をする。
だから、彼らが生きているかのような錯覚をうける。
そのうえで、だんだんそれぞれのアリバイについて考えようってなっていくとさ。だんだん、主人公が怪しくねってなってさ。
俺に何か言いたいことでもあるのかのような顔でこっち見てくるんですよ。
そういう疑いの目を向けられるのが、ゲームの世界でもわりとリアルと同じくらい嫌な気分になります。

ここまでが、このゲームでの機能的な部分での魅力です。ここまではネタバレではありません。ここから、ゲームをしたことを前提でこんな話だったよね。テーマはこれだよね、といったはなしをします。
こっから先はできればプレイしてから読んでいただきたい。まず、話のジャンルとしてミステリーだからこそ、ネタバレを食らうと面白さが半減してしまう可能性があります。
それに、再三言ってますが、これはバーチャルでしか体験できない仕組みを持った作品です。これから、それが何かを話すんですが、それについてはまず犯人はだれか、だれがなにをしてたのかわかってる状態でプレイすると同じ感覚を共有できないかもしれない。
それはもったいないです。
このゲームでできる体験は今後、いろんな未来に応用できる可能性があり、それはVR空間でのノベルゲームだけにとどまらない。
だからこそ、今、体験すべきものです。

とりあえず、プレイにあたっての注意点もいくつかあげます。

一つ、プレイするにはPS VR、オキュラスリフト 、オキュラス go 、オキュラスクエスト、などの VR機器が必要となります。昔は、機器一つで8万。PCも含めると20万でしたが、PCにつながない VR機器、オキュラス goの登場により、3万円前後でプレイできます。

二つ、プレイするときは十分な時間をとること。このゲームは6〜8時間でクリアできます。
しかし、できれば一気にプレイすることをオススメします。このゲームは閉じられた空間でのサスペンスを楽しむものです。
なので、ゲームの途中で仕事だったり、別の用事をこなしてから、途中から再開すると、プレイ中に感じていた危機感が抜ける恐れがあります。

三つ、プレイ後は十分休憩できる余裕をもつこと。本作では VR酔いはありません。しかし、ふつうのゲームより精神的な疲れが出ます。たとえるなら、劇団四季でライオンキングを観たあとくらい、アイドルのライブを見終わったあとくらいの疲れがあります。できれば、プレイが終わったら仕事がある日でなく。ゲームが終わったら、家でゆっくりするだけ、といった日にやることをオススメします。

それでは、1ページぶんの空らんののち、ネタバレにはいらせていただきます。

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ネタバレ注意!?
















ストーリー解説

ミステリーとして魅力

 まず、ミステリーとしての魅力について語りたい。本作は「わたしは死んだ、犯人はだれ?」という謎に答えを出すものです。

 主人公は目を覚ますと渋谷のビルにいることに気づく。外に出ると、様子がおかしい。その渋谷は誰もいない無人だった。
 探索していると、主人公の幼馴染の5人と再会する。なぜ、主人公を含めたこの6人が集められたのか。不思議に思うもつかの間。
 渋谷の電光掲示板に文字が。
「わたしは死んだ、犯人はだれ?」
 ここでエピローグが終わる。

 そして、この世界がクロノス空間と呼ばれるものであること。何らかの目的を達成しない限り、ここから出られないことが明らかになる。

 そのうえで、先ほどの問いに戻る。
 この問いにより、6人のなかのだれかが犯人で、「わたし」はそのだれかに殺されたらしい。その犯人はだれかというはなしになります。

 そこから、この世界を調べるためにチームに分かれての探索。ここでタッグを組むことになった女の子と交流。プレイヤーは彼女の人となりを知る。そのうち、彼女の過去、抱えている問題を知り。彼女を助けたいと考えるようになる。

 しかし、当然のことながら、その子は消えちゃうんですよね。

 このへんの誘導が上手いんですよ。

 そもそも、視点人物である主人公と幼馴染たちは一部、記憶が欠落してですね。しかも、小学校のときは仲がよかったけど、クロノス空間にはいる直前の交友関係の記憶がない。
 だから、仲がいいんだけど、ちょっと距離のある関係性。
 そのうえで、お互いに不信感がでるような先ほどの質問が彼らになされる。
 そんな状態で、最初に仲良くなる女の子が、東国ユリア。
 天才キャラでぬいぐるみが大好き。今回の登場人物の中で一番オタク受けしそうな設定とデザインのキャラクター。

 このゲームって、VRゲームの購入層に多い。PCが好きで友達が少ない人には正直言って馴染みづらい環境なんですよね。
 幼馴染たちの昔はすごい仲良かったけど、今は疎遠な感じは『あの花の名前を僕は知らない』みたいな状態でさ。
 そこで、彼らと渋谷の外でバーベキューしなきゃいけないんですよ。そこ、ちょっと抵抗あるんですよね。
 そういう人は、東国ユリアにちょっと救われるし、あの子が死んだときにどうして彼女が死ななきゃいけなかったんだって思ってさ。
 ゲームの世界観にのめりこむんですね。

 この流れは絶対オタクを意識したつくりになっています。その証拠に、その次に死んでしまうキャラが蔭山哲。6人組のなかで第一印象が一番陰キャな子です。
 彼は影が薄く、本人もそれを気にしている。そんな彼が変わることを決意し、なにか秘密に気づいたあたりで、やはり死んでしまった。
 このへんでさ、蔭山君が主人公に隠れてこっそりなにかやっていたり。明らかに主人公のいない間になにかしらの会話をしていたようだってわかる場面が増えてですね。
 絶対、これ主人公以外の視点があるんだろうなって薄々気づきました。

 そして、さっき話してた。主人公がアリバイの関係で、犯人だと疑われる場面に映る。
 ここで、主人公が捕まるんじゃないかと思ったときに、序盤で主人公とめちゃくちゃ距離の近い女の子が助けてくれるんですね。

 この子の名が、桃野夕。

 彼女は主人公を連れて一緒に逃げてくれます。そして、何日間かのあまあまの同棲生活が始まる。
 ここだけ切り取ると、すごい魅力的なんですよね。このゲームではこの子に関してはやたらと可愛いあの子と距離が近い、みたいなシーンをVRで上手くやっている。
 ギャルゲーや乙女ゲーがVRで出たらこういうことができるんだろうなって期待したくなるようなものになっていました。

 しかし、このシリアスな展開からの唐突なあまあまな展開ってのが、スゴイ怖いんですよね。

 そもそもさ、このヒロインは、主人公が無人の渋谷を探索しているときに最初に出会う女の子です。

 その時の登場シーンが、渋谷の駅前で、遠くから女の子をみつける。
 その子は、こちらを向いたと思ったら、走って近づいてくる。

 その時の近づき方がさ、遠くからだんだん大きくなる近づき方じゃなくてさ。
 3回くらいに分けてじょじょに大きくなって、最後、、主人公の目の前に現れて抱き着く。
 明らかに登場時のエフェクトが、ホラー映画のそれなんですよ。貞子さんが井戸から出てきて、テレビから襲い掛かってくるような溜めの入れ方してるんですね。

 仕様かと思ったんですけど、後で、遠くから近づいてくるモーションのキャラが出てくるから、狙って入れた演出であることがわかるんですよ。

 そのうえでさ、やたら距離近いじゃん。絶対、ヤンデレなんだろうなって思ったら案の定だよ。

 逃亡しているうちに、このままじゃいけないと考える主人公。そんななか、主人公のことを突き放すような態度をとっていた女の子、二階堂華怜が二人のもとにやってくる。
 逃げることを勧める桃野夕。話がしたいと言う二階堂。
 ここではじめて選択肢が出ます。
 もちろん、桃野の選択肢を選ぶとバットエンドになるんですね。
 
 ここで、ある事実が明らかになり、桃野は不慮の事故で消えてしまう。

 こっから、怒涛の勢いで事件が起き、いろんな真実が明らかになり、最後にすごい後味の悪いバットエンドになる。

 そして、2週目。
 同じように主人公の視点で物語が進むも、途中で視点が切り替わるようになってさ。
 これにより、ようやく話の全体像が分かり、ハッピーエンドになっていくという展開になる。

 このへんの世界観に没入させるための導入はスゴイ上手く作ってあるんですよね。
 さらに、こういったストーリーが面白いってだけでなく、テーマ―をもったものになっています。

多数決

 まず、気になるのが、本作はやたら多数決をする場面が多い。
 主人公がみんなから疑われたときも、多数決によってその疑いは決定的なものとなった。
 ほかにも、主人公たちの過去も、多数派による少数派の排除が起きていて、多数決に対して否定的な描写が多いんですね。
 しかも、主人公の推理を邪魔するもう一人の探偵役というミステリーの定番中の定番のキャラが出るんですけどね。
 その子は政治家の息子。彼も国を背負うにふさわしいリーダーとなるために多数の幸福につながる選択を良しとする人物でした。
 しかし、主人公の言葉により、それが正しいのか常に葛藤している。
 このへんから、民主主義批判をしているとも考えられます。
 この民主主義の批判とは、よくある愚かな民が優秀なリーダーを選べるのかってことではないんです。
 これは閉じられた空間で、つながりがなくなった人々から挙手を取ることで正しい答えは出るのか、という問題提起なんです。

 たとえば、もうすぐ参議院選挙です。
 いろんな人たちが選挙に行っています。しかし、若者の投票率が低いことが嘆かれている。
 これにより、政治家は高齢者にむけた施策しかとらなくなるから、若者は投票に行こうという話が一般論としてあります。
 しかし、これもおかしなはなしです。
 僕たちは高齢であろうと、若者であろうと、日本に住んでいます。
 若者に不利な政策をすれば、生産性は落ちて、高齢の方が今受けているサービスがなくなる可能性だってあります。
 年金を守ってくれる人に投票して、その人が当選し、現在の年金制度が守られて、未来に問題を先送りしたとしても。
 若者が労働意欲を失い、働き手がいなくなればそのお金を使う先がなくなるかもしれないし。お金自体に価値がなくなるかもしれない。
 片方を立てればこっちも経たずというもので、僕らは全体バランスを見たうえで全員がウィンウィンになれる選択をしなければいけないんです。

 こうした、全員が幸せになるために、全員が全体のことを考えなければいけない。
 その手助けが、VRならできる、というのが本作のテーマです。

他者理解のプロセス

 この作品は、幸せな結末を得るためには、わたしとあなたが理解しあわなければいけない、というメッセージがあります。
 本作の真のハッピーエンドにたどりつくための条件として、全員の視点ですべてのルートのクリアが必須条件になります。
 これにより、ラスト、主人公が真犯人(?)と対峙する際。
 多数の視点から、その人の人物像を知った結果、今回、クロノス空間を発生させた引き金となった事件の真実にたどりつけるという流れになっている。

 このへんの流れが理想的な他者理解のプロセスとなっているんです。

 よく、VRの可能性として、別の人の見ている景色を見ることで、「私の見ている景色とこの人の見ている景色は違う」というのが当たり前の感覚になると言われています。

 この感覚を、奇怪な事件の全容をVRで知るというミステリーゲームで追体験できるようになっている。
 このへんがVRの可能性を提示した作品としてスゴイ評価すべきところです。

 東京クロノスが流行り、そのへんの感覚を体験すると、これ使えばこんなことができるよねってのがいろんな人が考えられるようになるんです。

 たとえば、今の時代、カメラはどんどん小型化し、最終的にはコンタクトレンズくらいになるか。目に埋め込めるみたいなこともできるかもしれないという話があります。

news.livedoor.com

 これを使えば、交通事故の時にドライブレコーダーでその様子を記録できるように。殺人事件があった時に、被害者と目撃者が見た映像を残すことができます。

 そして、裁判の時に裁判員の方にVRで目撃者、被害者、加害者の視点を体験したうえで、その人がその時どう思ってどう行動したかをその人の立場に近い状態で考えられるかもしれません。

 他にも、よく経営者は現場の気持ちがわからないという言葉があります。数字だけを追うと、その現場での従業員や管理者の事情が見えてこないってものですね。かんぽ生命の不正販売も現場と上との齟齬も原因の一つと考えられます。むかしは下積みから始めることで、上に立つものも下の人の悩みがある程度わかるようになっていました。しかし、現代では、下の仕事がどんどん新しくなっていて、上のほうが知らない事情も増えたりする。セブンイレブンとかどんどん新しいサービスが増えていますよね。だからこそ、ホリエモンさんなどが下積み不要論を発信しているんですね。
 このへんも、VRで定期的に全体の仕事を手軽に体験できれば、個々人の作業が全体でどういう立ち位置になるのかの理解につながるかもしれません。

 こういうふうに、VRによる相互理解のプロセスの可能性がゲームで体験できる。

 オススメのゲームなんでまだやっていない方はぜひやってほしいです。

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渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

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