そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』について

 今回は、『現代社会で悪役令嬢をするのはちょっと大変』について紹介します。

 こちらは悪役令嬢ものです。
 悪役令嬢もの、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった』のアニメ化、ヒットにより一つのジャンルとしてだいぶ周知されています。
 乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生してしまった主人公が、自身に降りかかることが想定される悪役としての悲惨な末路をどう回避するのかが胆の作品だ。物語の序盤に、主人公にどんな悲劇が待っているかを読者と共有したうえで、その悲劇を主人公の機転やキャラクター性でどう突破して見せるかで、ラストでカタルシスを感じることができる。

 異世界転生ものは、そのタイトルのとおり、異世界を舞台にした作品が多い。しかし、悪役令嬢ものにおいては乙女
ゲームの世界に転生してしまうという特異性により。現実世界と似た世界に転移することもしばしばある。

 ただ、この作品はそうした現代を舞台にした乙女ゲーのなかでもかなり特殊な物語を展開している。

 主人公は将来的に破滅することを自身が転生する前にしていた乙女ゲームで知っています。 
 彼女の家には大量の不良債権があり、それの解消により婚約をしていたが、その婚約が乙女ゲームのラストでは破棄されて彼女自身が破滅してしまう。
 そのために、彼女は自身で銀行に赴き、不良債権の処理をし、様々な事業に手を出す。

 いわゆる財政チートというものなのだけれども。

 これが他の作品と比べると、かなり現代社会の実際の事件や金融用語を調べたうえで書かれている。

 テレビドラマ、『半沢直樹』の原作、池井戸潤著『オレたちバブル入行組』なみに、下手したらそれ以上にちゃんと書いてあります。それでいて、乙女ゲームの王子様キャラとの恋愛要素もちゃんと両立させている。

 作品の要所要所ではヒロインの行ったことを客観的に示す方法として、雑誌、新聞の記事が出てくる。こちらも実際の政治や銀行の事件と絡めたものになっている。

 「大蔵省」とか、「日銀」とか、「ノーパンしゃぶしゃぶ」とか。そういう言葉をまさか悪役令嬢もので目にするとは思わなかったです。しかも、これらはちゃんと物語の区切りで用語解説までついている丁寧さ。僕自身はそこまで金融や経済に詳しくないのですが。

 物語の序盤に、主人公が協力者として取り付けた執事による、幼いながらに賢いお嬢様にむけての金融のレクチャーにより、主人公の投資チートを理解するうえで前提になる知識がわかりやすく解説されている点も素晴らしい。

 オススメの作品です。