さて、今回紹介する作品はこちら、『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ? 』です。
あらすじ
平凡な生活を求めて獅子王学園に通い出した裏世界最強の男・砕城紅蓮は、新生徒会&隷徒メンバーと共に《獣王遊戯祭》代表選抜戦に臨んでいた。
だが、突如として現れた海外勢の刺客の魔手に仲間達は倒れていく。
心を許したライバルの仇を討つため、最愛の兄を守り抜き、その隣に立つ『覚悟』を証明するために、自らの命を懸けた遊戯に身を投じる可憐。
その勇姿を見送りながら、紅蓮もまた、全てを守り、殺すための戦いへと歩を進めていた――。
「俺は《黒の採決》で一度も敗けなかった。過去にも、未来にも。それが遊戯である限り俺は絶対に敗けない。そういうふうにできている」
今、最も熱い学園ゲーム系頭脳バトル第六弾。【電子特典!書き下ろし短編付き】
シリーズ全体の魅力(1巻から5巻までのネタバレ注意)
さすおに系について
『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ? 』とは、ギャンブルもののデスゲームでありながら学園ものでもあります。近いものだと、『賭ケグルイ』と『ノーゲームノーライフ』を合わせたような作品。amazonのレビューや読書メーターでは1巻に対する印象でみんなそう言ってましたね。
舞台は今よりも未来。SAOのような、VRによる完全な仮想空間が可能で、ドローンや機械による無人の農作業や生産業が当たり前。1巻やそれぞれの巻の要所要所でサラッと書いてあるだけですが、これがじつは重要。こちらについては後で触れます。
そんな世界では、第三次世界大戦というものがあったことにより、どうやら戦争がなくなっているらしい。代わりに権力者たちは代理戦争として、遊戯でお互いの情報や技術、人材などの資産を奪いあうようになりました。主人公の砕城紅蓮はそんな遊戯の天才。彼は命をかけたゲームによる権力争いに妹の砕城可憐を巻き込まないために自ら遊戯の世界で無敗の覇者となった。そんな彼は作中ではまだ語られていない大きな戦いの末、タイトルにあるゲームで評価される学園に入学することになります。そこで、彼は一度は遠ざけたはずの妹に再会し、つぎつぎと学園内で渦巻く構想に巻き込まれたことにより、当初望んだはずの日常とかけ離れたものになる。
この妹が『魔法科高校の劣等生』の妹、司馬深雪に近い存在。周囲や公的な機関がどんな評価をくだしても、兄の素晴らしさを信じている。いわゆる"さすがお兄さま系"の妹。
”さすがお兄様系”、略して「さすおに」。このジャンルは、優秀な主人公が公的な機関から不当な評価を受けていることに対し、彼に近しい存在がその評価に憤り、本来の主人公のスペックを褒めるという形式をとっている。
この流れは古くからあり、たとえば手塚治虫の『ブラックジャック』もこのルールで考えれば「さすおに」です。
『ブラックジャック』は、主人公のブラックジャックは天才外科医であるが、医師免許を持っておらず、周囲からヤブ医者だと評される。そんな公の評価に対し、家族に近しい存在のピノコは憤る。
「さすおに」系の妹とピノコの役割は主人公に近しい存在。主人公と近しい境遇でありながら、だからこそ比較すると違うところが浮き出るところです。
『ブラックジャック』のピノコは、バラバラの身体をブラックジャックが縫い合わせて新しく生き返らせた存在だ。それは地雷で一度は身体を破損したが、恩師の外科医によって生還したブラックジャックと同じ境遇です。
しかし、違うところもある。ブラックジャックは医者となって人々を助けていくと同時に、自分の身体をバラバラにし、母を殺した原因を作った相手に復讐している。そういう原罪を背負っていくキャラなんです。逆に、ピノコは主人公とともに命と向き合うことで、心理的に成長していく。罪を負わない形で。ブラックジャックって、打ち切りみたいな終わり方しているんですけどね。最終回を見た限りでは、主人公が医者として多くの命を救ってきたと同時に、その命を人工的に延ばすという罪を犯してきた。その罪を、成長したピノコが許すのか背負うだかして、解消されますよ、という話だと解釈できるんですね。
『自称Fランク』の主人公も、自分の生まれた家が定めた遊戯で相手から奪わなければいけない、という戦いに妹を巻き込まず、すべて自分が背負い込むことにした。
それは彼の家が、この世界の権力者たちが行ってきた遊戯という罪を彼一人が背負うことでした。
これの面白いところは、この権力争いから物語が始まるのでなく、それがいったん終わって、学園生活をはじめようってとこから始めたところが面白いし。ヒロインであるはずの、砕城可憐が、ただの主人公の庇護下で終わるキャラでないところが面白いんですね。
主人公の妹、砕城可憐について
先ほどまで、さすおに系とはなにかについて説明させていただいたのですが、実際のところ、この作品の面白いところは本作はさすおに系であって、さすおに系でないところってのがスゴイとこなんですよ。
主人公は砕城紅蓮、彼は遊戯によってすべてが決まる裏の世界、≪黒の採決≫で無敗でいたが、その舞台から引退し、師子王学園で普通の学園生活を送ることを夢見た。しかし、その学園が遊戯によってすべてが決まる学園。
彼はその学園で遊戯とは関係のない普通の日常を送るために自分の意志で、転入試験でFランクをとった。
『魔法科高校の劣等生』も『ブラックジャック』も、あくまで形式通りであるがゆえにその人の本質を見抜けない不当な評価である一方、本作は、本人の意思で自分はFランクであるように偽った。
本来であれば、その時点で彼は遊戯とは無関係の学生生活を送れるはずだった。しかし、主人公の身近にいた。彼に人生を変えられた一人の女の子がそれを許さなかった。
その子の名こそ、砕城可憐、主人公の妹です。一巻では、平穏を望んでいるはずの主人公が桃貝桃花、楠木楓に巻き込まれる形でそれを壊してしまいました。そして、終盤でそれが妹の狙いで、彼女はお兄さまが学園の頂点に君臨することを望んでいることが明らかになる。
このへんを押さえた上でさ。表紙に書いてある『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ? 』ってタイトルが、じつはかなり意味深な言葉であることがわかるんですよね。
まず、"お兄さまが"と書いてある時点でこれが妹の視点であることがわかります。さらに、"自称"Fランクのってわざわざ書いてある。この「〜の」は強調ですね。しかも"自称"とつけることで語り手である妹は兄がFランクであることを強く否定している。この「〜の」は、「と、言ってるけど違いますよね」って意味なんですよ。その上で「頂点に君臨するそうですよ?」と、疑問形で書いてあるんだけどさ。この疑問形もさ、相手に答えを聞くんじゃなく、言わせるための質問なんですね。
つまり、お兄さまが頂点に君臨するに決まってるという可憐の強い意志が秘められています。
タイトルで、ここまで自己主張の強い子がさ。お兄さまに守られてるだけのモブやメインヒロインで収まるはずがないってことが一巻の時点でわかるんですよ。
本作、6巻まで出ているんですが、すべて兄と妹のツーショットで表紙を飾っています。このシリーズは二人の関係性を描いていくものですよって初見の人に強調してるんですね。
そして、その関係性は恋愛関係に近いんだけど、対立関係でもあるんです。
異性関係でありながら対立関係
たとえば、ハリウッド映画でこんな話を見たことはありませんか。
刑事、軍隊、ジャーナリストなどに所属している主人公。彼は自身の正義の置きどころを組織に託しています。そんな彼には優しくて献身的な奥さんがいる。そんななか、彼はある組織の不正に気づく。
葛藤する主人公、しかし、彼の人格を形成するきっかけとなった初期衝動を思い出し、彼は組織を裏切るを決意をする。そんなさなか、家に帰ると妻は笑顔でこう言った。
「あなた、わたし赤ちゃんができたの!」
海外の映画やドラマを見たことがある人は、今の話をあるあるとおもったのではないでしょうか。
今日から、こういうのを当ブログでは、「異性関係でありながら対立関係」と呼びます。
この時、主人公は組織との戦いをしながら、日常的な会話の場面で奥さんとも心理的な戦いをしているんです。
最近だと、こういう表現はジェンダーにも引っかかるかもしれないのですが、ベタな設定として過程に入った奥さんは夫にその家庭だけを考えてほしいし、夫はそこから自由になって漢として戦える瞬間を味わいたいと考えている、というのは古今東西物語のベースであるんですよ。それは原始時代の頃から、男性は狩りのために新天地に行き、女性はとどまって現在の関係を整えるっていうのが、イメージとして浸透しているからですね。
本作にも、「異性関係でありながら対立関係」というのがあるんですが、珍しいのがヒロインが主人公の戦いを望み、主人公は平穏を望む、という逆転があることです。
このシリーズでは、妹と兄が兄弟という境目を超えないラインでラノベ的なイチャコラを繰り広げるのですが、その会話の上でなされているのが、兄を学園の頂点にしたい妹と、平穏を望む兄の対立なんですね。
このへんが読んでて面白いんですよ。二人はスゴイ仲がいいんだけど。セリフ上ではお互いの考えがかみ合ったことがないんですよね。その場その場での譲歩はあるんだけどさ。その日以降考えを変えるってことがなくてさ。兄には兄の言い分があり、妹には妹の言い分があるってのが他のキャラクターとの会話でどんどん濃くなっている。
現在では、可憐も戦いを通じて強くなっていっているので、兄を学園の頂点に君臨させるためにいつかこの対立が目に見える形で出るのではないかってちょっと期待しています。
砕城紅蓮について
今回、1巻から5巻までの魅力を語るうえで妹に比重を置いた解説となりましたが、もちろん主人公である砕城紅蓮も魅力的なんですよ。
ただ、じつはまだ彼についてはどんな奴なのかと言い切るには隠していることが多い。この作品、主人公が無双したり、オチャラけたギャグパートがあるから、読者であるぼくらもわかった気になるんだけどさ。
彼の真意、心の内が読めないように描かれているんですよ。
これはこの前ブログで書いた『天才王子の赤字国家再生術』でも触れたんですけどね、「主人公はじつはこんなことを考えていたのか!」と読者が後半で驚くような作品は、うまい具合に主人公の本当の気持ちや考えが描写されないんですよ。代わりに、桃貝桃花と楠木楓がリアクションを担当し、妹の砕城可憐がゲームの動きを解説していく。これにより、主人公は黒の採決という権力者たちの代理戦争に参加していたという過去や、今、彼が何を考えているのかってのが、まだ完全に明らかになっていないんですよ。
また、3巻から学園の頂点に君臨する何人かがバトル漫画の異能力みたいなのをもっててさ。主人公の口ぶりから、なにかしらの研究機関によって系統分けされているらしい。
つまり作品世界に異能がルールとしてあるらしい。そして、ならあるであろう主人公の異能が具体的にハッキリしていないんですよね。
パッと見だと遊戯であればなんでもできる、人の心を見抜くことができるってのがあるんですが。これは主人公の異能をスケールダウンさせたものか、あくまで遊戯者としての技術ではないかと思うんですね。
しかも、5巻でどうやら脳の中に人格をダウンロードできるナノマシンみたいなのがあってさ。これも水葉と紅蓮の訓練元となった研究機関が携わっていたものらしい。
そう考えると、たぶん紅蓮のなかにも別の人格がダウンロードされているんじゃないかとは思うし、これが目覚めた時にどうなるのかって話にはなりそうなんですよね。
砕城について
個人的に面白いと思った部分を語ったうえで、本シリーズのテーマについて話していきます。
今のところ考えられるのが、古今東西のデスゲーム系で共通してる目標でもある”デスゲームの主催者を倒す”ってのがこのシリーズでもあるのでしょう。
これの面白いところが、この主催者を倒すというのが学園長を倒すとか、生徒会長の白王子透夜じゃないと思うんですよ。
まず、この作品ってキャラのネーミングでいろいろ暗示しているのがあると思うんですよね。
たとえば、2巻で出てくる御獄原水葉と静火姉妹。姉の水葉は後の睡蓮の花を挿している。そのうえで気になるのは静火。これ、主人公兄弟の砕城紅蓮の紅蓮の炎とかかっている。
つまり5巻で妹の可憐が水葉と師弟コンビを組むことになるんですけどね。3巻では主人公の紅蓮のシャドウであるかのようにふるまうんですが。あくまで二人は家の境遇を一身に背負った身どうしであるという似通りがあるだけで。内面としては水葉と可憐、静火と紅蓮のほうが共通しているものがあるってことなんですよ。
そして、大事なのが主人公兄弟の苗字である砕城。たぶん、これがシリーズ全体の目的なんですよ。
城を砕くとなると、まずオノマトペで考えたら、白王子透夜。
実際、1巻から現在にかけて現段階での最大のライバルキャラとして描かれています。
ただ、白王子家を倒すだけで終わりではないと思うんですよね。なぜなら、彼は白王子、つまり”城の王子”なんです。それを強調するために白王子朝人という透夜の弟キャラが主人公の味方になりました。
そもそも主人公が目指すのは城を砕くこと。では、その城とは何か。これがなんの比喩なのかって話になるんです。
城とは、いわば人工的につくられた権力の象徴。つまりこのゲームのシステムそのものです。
たぶん、妹と兄とでお互いの価値観をぶつけあって和解した後はこの黒の采配という盤上自体を壊そうとするというこのシリーズ全体の流れになるのではないでしょうか。
あくまで予想ですけどね。あたっても面白いし、外れても面白い。
では、最新刊の6巻の感想に移りましょう。
最新刊、6巻の感想
世界大会のはじまりと異能バトルの開幕
5巻で、学園長の口から衝撃的なことを告げられる。なんと世界中にある遊戯を教える学園同士で大会のようなものをやることに。
主人公たちの学園でも代表選手を選出するために、選抜大会を行うことに。
そこで今までのキャラクターが総出演して競い合う。そんななか、学園入学時に主人公が助けた作中で一番最弱であったキャラ、桃貝桃花が静火と聖上院姫狐による特訓で異様な成長を見せる。
この巻では今までにはなかった組み合わせでキャラ同士の日常を描いている。さらに、1巻で登場した時任ミミを再登場させることで、じつはかなり初期の段階で異能による遊戯ってのをやってて、これからさらに異能持ちのキャラが出てきますよって前振りを入れているんですね。そして、5巻のラスト、水葉と元生徒会役員のアイドルとの戦いになるはずが、水葉は戦う前に負傷。アイドルの子は正体を偽っていて、本当の姿はロシアのスパイ、クラウンだった。
そして、6巻で、可憐はロシアの要する遊戯者、クラウンと戦います。
このクラウンが今までの登場人物とは一線を画した存在として描かれています。彼はナノマシンによって精神を分離させられる存在。
集団であり個人でもある彼は自分一人の生き死にを気にしない。
彼はロシアの研究機関の実験により生まれた存在。
彼らは俗にいうインターネットの個人個人のメタファーでしょう。
姿を偽り、一アカウントの勝ち負けにこだわらないからこそ、どんな人物にも悪意を持って接することができる。
しかし、その実態は社会の大きな流れに操られるロボットのような存在。
親元から見捨てられれば簡単に今の地位が揺らぐし、勝ち負けを気にしないという考えでは本当の勝負には勝てないという流れにより、今までの遊戯者を立てていく。
そのうえで、存在自体が異様なため今後の世界大会でこれ以上のヤツが出てくるのかというワクワク感が出るんですね。
白王子朝人について
今回、気になるのが白王子朝人でしょう。
彼は白王子家ではありますが、彼の兄の婚約者、聖上院姫狐にたいする恋により白王子家を裏切ることに。
3巻で露骨でしたけど、白王子ってのが白雪姫の王子様って意味でさ。朝人、つまり朝の人ってことでさ。白雪”姫”を起こす人って意味なんですね。
さらに大事なのが、彼が朝”人”で好きになる相手が姫”狐”ということです。3巻を読んでいた時は姫狐が裏切るのかな、とおもったんですが。それはミスリードでさ。
彼女の本質を受け入れたうえで、人である朝人が彼女とどう向き合うかという人外婚姻譚だったんですね。
なので彼は異常な世界で人として頑張るキャラとして描かれている。
怪物だと自覚している紅蓮に対して対等な親友であろうとしたり、彼のためにできることは何かと考えたりさ。
葛藤を抱えているキャラであることがわかるんですね。そのぶん、どうしてもヤムチャ的な扱いにもなっちゃうんですけどね。
彼の今後の成長が楽しみです。
カリオストロの城
今回、ラストである新キャラが出てきていてさ。そのキャラが7巻、もしかしたらこの大会全体のキーキャラになりそうなんだけどさ。
そのうえでの予想で考えられるのが、たぶんカリオストロの城になるんじゃないかなと思う。
まず、このシリーズってさ。妹の可憐にしろ、水葉にしろさ。
ヒロインがどうやって主人公を遊戯の世界に連れてくるかって話だったんだよ。
それが2回連続だったんですね。そう考えると、次は逆でさ。じゃあ、遊戯と離れてくれたら私と幸せに暮らしてくれますかって問いが来ると思うんですよ。
つまりさ、6巻のラストのお姫さまとの恋愛も絡めた展開になるんじゃないでしょうか。そのうえで、もうひとひねり騙してくるかもしれない。
あくまで予想ですけどね。
では、7巻も追って報告いたします。
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