そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『理想の娘なら世界最強でも可愛がってくれますか?』の2巻について

さて、今回紹介する作品はこちら、『理想の娘なら世界最強でも可愛がってくれますか?』の2巻です。


理想の娘なら世界最強でも可愛がってくれますか?2【電子特典付き】 (MF文庫J)
著者:三河ごーすと
イラストレーター:茨乃
レーベル:MF文庫J
発売日: 2019/1/25
出版社: KADOKAWA
ISBN-10: 4040655079
ISBN-13: 978-4040655079

あらすじ
無敵の父親>>>最強の軍団 年の差ラブコメ×魔法学園×父娘ファンタジー

史上最高ステータス値を記録し、最強のSランクとして《第一魔法騎士学園》に入学した白銀雪奈。
その父であり、表向きDランクの専業主夫である冬真は、人知れず陰の特殊部隊のエースとして世界の平和を維持していた。
だが、友を失った雪奈は学園最強の騎士団《ヘヴンリー・ロウズ》への入隊を望み、二人は新たな戦いへと巻き込まれていく――!
「戦争を経験したら……お父様の思う、いい子の雪奈じゃ、いられないかも、しれませんよ?」
「今までも、これからも。雪奈は俺の最高の娘だよ」
自立を望む尊い心につけ込まれ、地獄と化した戦地に向かう娘を救うために、無敵の父が真の実力を発揮する――!

初代ガンダムのブライトが主人公

 この作品は異能学園ものです。『とある魔術の禁書目録』とか『魔法科高校の劣等生』、『インフィニットストラトス』のように異能を鍛える学園を舞台にした作品です。
 時代は未来。この世界では胞子獣という怪物がいて、人々は既存の軍用兵器で彼らと戦ったが、勝つことができなかった。なので、コロニーのようなものを作って生き残った人々は避難し、若者たちは胞子獣対抗できる異能を訓練している。主人公はそんな世界で最強のSランクで周囲からこの世界を救うかもしれない英雄として期待される少女、白銀雪奈、でなく、その子の父親の白銀冬真。しかも彼は周囲からDランクとして扱われていた。しかし、じつは第一線で活躍する特殊部隊のエースで実戦スキルはかなり高かった。
 面白いですよ。異能学園もののいいところがさ。学校で伸ばすスキルを異能に置き換えて大衆向けの話にしながらも、学校の中でどう学んでいくべきか、ということに対していろんな問いを出しているとこがいいんですよね。
 こういった場合、だいたいが学校という狭い範囲内では評価されない人間が社会という実戦ではじつは有用な人間で、学校という箱庭はその枷でしかないという夢物語で終わりがちなんですが、この作品では、世界を変えうる天才がいたとして、そういう子をどう導いていけばこの世界はよくなるのか、という視点で描かれているのが新鮮です。
 人類というある組織が危機的な状況の中で、限られた資源と人材の中で突出した天才と向き合うことで状況を打開する。
 これと似たようなものが、『機動戦士ガンダム』のアムロです。
 この作品の状況って、機動戦士ガンダムでコロニーの襲撃から逃げるように地球を目指して出発した1話の戦艦の状況を惑星単位で大きくさせた話なんですよ。
 アムロが本作で世界最強とされる娘の雪奈。その娘の父である主人公の冬真の立ち位置はなんとそのアムロの上司であるブライトです。
 だから、設定や戦闘描写はライトノベルっぽくて面白いし、作中で語られるテーマは20代後半が読んでも面白いものになっている。
 1巻ではそうした状況の中でじつは父親のチート性を見せつけながら、絶望感のある急展開で世界観と主人公の強さを読者に印象付けました。
 2巻ではヒロインである主人公の娘の心理描写に重きを置くことで、娘との接し方に戸惑う父親としての彼の姿が浮き出た巻でした。
 

敵は身内

 今回の敵は身内。じつは胞子獣を神のように崇拝する組織の存在が1巻の後半で明らかになり、彼らと主人公の在籍する特殊部隊との戦いが今巻の導入でした。
 そこからのニュース報道により、胞子獣という脅威がいるにも関わらず政府は怪物でなく、人に銃を向けている、というのが一般の市民の反応であることがわかる。
 読者は序盤でその組織がどれだけ悪どいことをしているかわかっているから、市民が政府を非難し、敵視している様に憤りを感じるんですが、実際にマスメディアを通してみる1巻の序盤の戦闘の概略みたいなものがそこまでズレたものではないからさ。だれかが悪いと怒りをぶつけられない理不尽な状況に対するむなしさも感じるように描かれています。
 そこから、グランマリアという異能学園の生徒でありながら、学園を牛耳る生徒会長的な立場に立っている女の子が、世界を守るためにヘブンリー・ロウズというその学園の生徒のみで構成された軍隊を作っていて、そこに主人公の娘をスカウトした。1巻では、加入を断っていた雪奈でしたが、1巻の終盤の悲劇により、守れたかもしれないものが守れなかったという体験を経た彼女は加入を決意する。
 さらに、2巻からグランマリアは2巻の序盤での主人公たちの戦闘を世間に対して非難することで、市民から賛同を得ていた。
 いわゆる今のアメリカのトランプみたいな形でさ。政府の大人たちからは思ってもみない形で一人の少女が権力を持っている形となっていました。
 これにより、世間へのアピールとしての存在だったヘブンリー・ロウズがまだ若いのに、胞子獣と戦って世界を救うんだという流れになった。
 自分の娘も、胞子獣と戦う覚悟を固める。
 しかし、父親としても、世界最強の少女を育成する立場のものとしても、才能があるが経験や知識に乏しい若者たちが戦いに出向く形になるのは望ましくなかった。

最強の娘と父のすれ違い

 こういう状況があって、娘と父親がすれ違いだすってのが今巻の話です。
 今巻は各キャラクターの心理描写が上手でしたね。
 冬真と雪奈はもちろんのこと、彼女たちの周囲のキャラクターのなかにある葛藤がなかなかよかったです。
 たくさんのキャラクターの心理描写が重なっていくことで、その裏でかすかに動いていたことが大きな波となり、最終的にヒロインにある決断をとらせたって展開は上手かったです。
 次巻もどうなるのか、今から楽しみです。