そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『賢者タイムが終わらない』について

 さて、今回紹介する作品はこちら、『賢者タイムが終わらない』です。


賢者タイムが終わらない。 (電撃文庫)
著者:枕木みる太
イラストレーター:牡丹もちと
レーベル:電撃文庫
発売日: 2018年9月7日
出版社: 株式会社KADOKAWA
ASIN: ISBN9-78-4-04-893966-9

あらすじ
んなは『賢者タイム』って知ってるかな?そうだね、一人でアレコレ楽しんだ後の、あの至福の一時だね。俺は性欲が無限に湧いてくるので、すぐに復活しちゃうけどね!…って思ってたんですけど、禁忌としていたアレをオカズにしたら、賢者タイムが終わらなくなったんです!えっちな小説も全然書けなくなって、夢だった作家デビューもなくなりそうだし、一体どーすればいいんだぁああ!でも、性欲がなくなったら書く小説が爽やか青春小説になり、女子にも意識せずに話しかけられるようになって、まさかのモテ期が到来!?でも、こんな状態でモテてもしょうがねーんだよぉおお!

作者のtwitter
枕木みる太@『賢者タイムが終わらない。』9/7〜 (@mori_hiko) | Twitter

 面白いですよ。
 主人公はエロ小説を書いている高校生。彼はある日、ひょんなことから賢者タイムに陥ってしまい、そこから抜け出せなくなる。
 困ったことに、主人公は作家デビューのために賢者タイムを題材にしたえっちな小説を書いている途中だった。
 しかし、賢者タイムの主人公にはえっちな小説が書けず、普段は書かないような青春小説しか書けない。
 そんな中、賢者タイムになった主人公は女子にも意識せずしゃべれるようになり、書いてしまった青春小説をきっかけにある女のことも仲良くなり、まさかのモテ期がやってくる……ってはなしです。

 下ネタ全開の本作、コメディとしてもゲラゲラ笑わせていただきました。
 序盤、主人公のキャラを立てながらも、下ネタを連発して笑わせるセンスはすごいし、その日常がさ、あとあと賢者タイムで崩れていくところも面白かった。

 また、読んでいて思い出したのが、『火星人ゴーホーム (ハヤカワ文庫 SF 213)』ですね。スランプ中のSF作家が「もし火星人が来たら……」と小説のアイデアを練っていたら、実際に緑色の火星人がやってきてさ。そいつは実体がないものだから、精神病なのか、ほんとに火星人なのかもわからず。ほかの人々にも火星人が見えてきてみんな精神を病んでしまうって話。

 いつものストーリーラインの話ですね。ある目的に向かって進んでいる主人公の前に、それを阻害する説明のつかない理不尽なことが起きる。『火星人ゴーホーム』と『賢者タイムが終わらない』に共通している。この話を面白くしている点がさ。この理不尽なことってのがさ、じつは三つの理由、宗教的理由、身体的理由、精神的理由にわけて説明できるんです。

 それは以下の三つです。
①主人公は神様にあるお願いごとをしたため、それを神様がかなえた
②主人公はその時、ある行為を7発もしてしまった
③主人公は幼馴染の間である事件が起き、彼女を異性として強く意識してしまった

 そういった複数の理由が、作中の主人公が賢者タイムを治すために起こした事件ともリンクしてさ。このままじゃ、だめだってところでさ、ラスト、この理不尽な事態が解決する時にこの三つが同時に解決された状態になるため、結局何が原因だったかわからないんだけど、畳みかけて行くように問題が解決するからさ。ジェットコースターに乗った後みたいな、すごいものを読んだ感覚を味わうんですね。

 いろいろあって、結局何だったかわかんないけど、ハッピーエンドになってよかったみたいなさ感じになるんだよね。

 それと、クリエイターものとしての熱さもちゃんとあるのがいいですね。主人公は、えっちな小説を書くことに出会う前、ある種の満たされない思いを抱いていた。それがさ、賢者タイムが訪れたことで彼の日常が皮肉も好転してしまう。これがさ、彼の葛藤にもつながるし、だからこそ、そんなことよりも俺はえっちな小説が書きたいんだって考えるシーンは熱いんですよね。
 最初、ネタで買ったけど、序盤は確かにあるかもな、と思ったし、終盤は心動かされましたよ。

 よくさ、小説を書くコツってなんだろうって話がさ。よくネットでもあるんだけどさ。じつは一番大変なのは、自分の書きたい小説を書くためのメンタルの持っていき方ってのが難しいんですよね。
 僕も仕事で疲れていた時に、書こうとする小説がどれも下ネタばかりになって、精神状態がかなりやばいとこうなるのか、と絶望してたら、安定してきたらそういう小説も書けなくなって、ノクターンに投稿してそのままにしてたらわりと反響があったけど、その時にはもう続きが書けないと思ったことがあったんで、わりとこの主人公には感情移入できましたよ。右上のリンクに書いてあるエデンプロジェクトってタイトルの作品のことですね。

 小説ってさ、ゴルフみたいにさ。心のコントロールが大事だからこそ、ある日書けなくなったり、テクニックだけだと難しいってのがあるんですよね。
 今回、この作品を読んでて思い出しましたよ。

 ハーレムラブコメとしても面白いし、クリエイターものとしても熱さがあって面白い。下ネタがいける方は是非とも読んでいただきたい作品です。