さて、今回紹介する作品はこちら、『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』の6巻です。
著者:井中だちま
レーベル:ファンタジア文庫
出版社: KADOKAWA (2018/8/18)
ISBN-10: 4040727029
ISBN-13: 978-4040727028
発売日: 2018/8/1
あらすじ
「お母さんは、とっても素敵なお店だと思うわ!」ゴブリン討伐クエストでは、ゴブリンに料理を、学園では、臨時教師としてお母さんの素晴らしさを教える頼れるお母さん、大好真々子が親子の悩みを解決する“お母さん屋”を開くことに。国の女王や王子、甘えすぎる娘に困る母親などの相談を見事解決していく中、ゲーム内のキャラクターと結婚したいというテストプレイヤーの母娘が訪れ―!?「マー君をドキドキさせちゃうのは誰なのか、ドレス選びで勝負よ!」お見合いパーティに参加することになった真人たちは、幾多の障害を乗り越え、無事カップル成立できるのか!
シリーズ全体の魅力
『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』は母親同伴ではじまる異世界冒険ものです。具体的に言えば、『ソードアートオンライン』のような架空のMMORPGを舞台にした作品。
主人公の大好真人と大好真々子は親子。父はおらず親子二人で暮らしてきた。真人は最近思春期に入り始めたため、母親に冷たい態度をとっている。真々子もそんな真人との距離を測りかねている。
そんな中、真人と真々子は母と子の絆をつなぎなおすためのMMORPGの世界に閉じ込められてしまう。母と子が仲良くなることがゲームのクリア条件となるのだが。息子の真人としてはせっかくの異世界で活躍したいと考えるも、息子よりもチート能力をもってしまった母の真々子に出番を取られ、ふてくされてしまう。
これタイトルと設定だけだと悪ふざけの強い話かと思いきやさ。じつはわりとテーマ性のしっかりした話なんですよね。
母親である真々子は、タイトルの通り通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんなんですよ。そうなるとどうなるかといえばさ、1ターン目で敵がいなくなってさ。息子の戦う敵がいないんですよ。だから活躍したくてもできない。
じつは構造的にはエヴァンゲリオンと同じなんですよ。あれもシンジは母親の中で戦っていてさ。どうやって彼がエヴァから降りて夏から抜け出して冬に行けるのかってのが漫画版とかであった順調に進めばありえたはずのストーリーだったわけでさ。つまり母親の支配から抜け出してモラトリアムから脱することができるかって話になるはずだったんですよ。それを庵野さんは信じることができなかったから、Qでエヴァンゲリオンにシンクロした人は歳がとらないみたいな設定になったんですよ。
この作品もさ。強すぎる母親を持ってしまった息子はどうすべきかってのがテーマとしてあるんですよね。さらに面白いのが。エヴァだとそれがシンジくんだけの視点で語られていたんだけどさ。この作品では真々子さんをメインヒロインにすることで彼女と真人の両方を主人公にした作品に仕上がっています。
強い力で守られてしまう息子と、そういう力を持ってしまった母親が、同じような異能の力をもって暴走した母親とその人に育てられた娘と戦うことで精神的に成長するストーリーラインを6巻ではずっと回していました。
6巻ではそのテーマの総決算。息子第一に考えていた母親は自分のしたいことを息子に伝え、息子はそれを応援するって話だったんですよ。しかも、主人公を異性として意識してなかったワイズとメディが彼に好意を示すようになる場面もあってさ。今の現状が変わり始めていたんですよ。
となってくると、今巻から新しい展開がはじまるだろうと予想してたんですけどね。その通り、新しいテーマで物語が始まろうとしているなと感じました。
オムニバス形式
今回、じつはオムニバス形式の話になっています。MMORPG内で起きた事件を真々子が持ち前のチートで解決するって話です。今回の短編に共通するのがさ。MMORPGの世界にいるモブキャラにも意思があるんだよってのが強調されていてさ。それが今回の話のラストにつながるって構造になっているんですよね。
ここから予想できるのがさ。今まで、強すぎる母による関係性をめぐってのストーリーだったんだけどさ。それはさHAHAKOさんのくだりで一応テーマとして決着はついたんですよね。場を乱す反抗組織との戦いもさ。その組織に所属しているアマンテとソレラが改心しそうな展開を予期させる場面がHAHAKOさんとの絡みでありましたよ。
そうなってくると、とうぶんはMMORPG世界で発生する問題を解決するってストーリーラインに乗り換えるんじゃないかと思うんですよね。
ポータとシラーセについて
そのへんで気になるのがポータとシラーセなんですよね。
ポータは両親の仕事の都合で一人でこの世界を冒険していたイレギュラーな存在なんですよね。んでさ、6巻のあるシーンを見て思うのがさ。たぶん彼女の母親がシラーセなんでしょう。今回もおまけのページでお母さんに相談するコーナーがあったんですけどね。そこに妙に含みのあるセリフを言う場面を在りましたから。
8巻か9巻のあたりでそのへんも明らかになると思うんですよね。
では、次巻も追って報告いたします。