そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ』について

 さて、今回紹介する作品はこちら、『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ』です。


お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。 (ファンタジア文庫)
著者:凪木エコ
レーベル:ファンタジア文庫
発売日: 2018年8月20日
出版社:  KADOKAWA / 富士見書房
ASIN: B07GF2MH2W

 


あらすじ
孤独を恥じず、集団に属することのストレスを何よりも嫌う。ひとりで過ごす時間が最高の贅沢―おひとり様至上主義な高校生・姫宮春一は理想の学園生活を謳歌していた、はずなのに。学園の完璧ヒロイン・美咲華梨から友達作りを手伝うと言われ、趣味がドンピシャに合うクール美人・羽鳥英玲奈には懐かれる。―そんなおひとり様ライフを邪魔される状況を春一は許さない!「ひとりが寂しい?余計なお世話だバカヤロウ!!」めんどくさい性格ゆえに自らフラグを折りにいく春一だが、なぜか美少女たちは誤った方向に絶賛、逆に注目を浴びてしまって!?ひねくれボッチートな青春ラブコメ、堂々開幕!

 陰キャの主人公がある日を境にまったく正反対の陽キャの女の子に振り回されるようになる。最近のトレンドですね。『涼宮ハルヒの憂鬱』のキョンくんや『氷菓』の折木奉太郎が源流にありますね。

さらに、『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』でリア充と非リアの両方の人間関係が描かれるようになって陰キャが陽キャと関わるハーレムものってのが最近のトレンドになっている気がします。

『桐島くん部活辞めるってよ』って作品がありますけど。あれもクラスのカースト下位と上位のそれぞれの物語が描かれている。青春小説って『野ブタをプロデュース』でもクラスカーストは書いていたけどさ。視点がカーストの下位と上位のどっちかに寄る、あるいはそれが存在しないか。最近まであまり意識して描かれていなかったんですよね。

 もちろん2005年にいじめ問題が過熱して重松清やあさのあつこさんたちがこぞっていじめを題材にした小説を書いたり、テレビドラマでいじめを扱ったり、著名人が朝日新聞で「いじめられたきみへ」で偉そうな説教をした時期が2008年くらいまで続いたんですけどね。あれも熱が上がったらぜんぶ風邪と言ってるようなもので、熱が出たところで風邪だ風邪だと言えても、風邪になる原因だったりどういうウィルスがどんな経緯で体に侵入したのかという。結果に対するプロセスに対する想像力に乏しい作品が多かったんですよ。

 風邪ってのはあくまで体の異常に対する総称です。それで死人が出たり、体に別の異常が出たらどんなウィルスかって調べなきゃいけないんですけどね。なぜかその症状の名は風邪だこれは直さなければと言って解熱剤を出すだけで終わっている。

 それが当時のいじめに対する過剰反応でさ。大事なのはどんなウィルスがはいるのかという環境と経緯を明らかにすることなんですよ。

 最近のラノベのいいところは、いじめになる前の微熱状態。悪化していないけどなにかしらの問題をはらんでいる状態をさらにラノベ特有のマイルドな語り口で描けているところがいいんですよね。

 この作品もこの流れの中で生まれた日陰者の主人公によるクラスカーストものなんですけどね。そこにハーレムの要素を話を壊さないギリギリまでいれたところが特徴的です。

 主人公の姫宮春一はクラスで孤独であることを愛する日陰者。そんな彼はひょんなことからクラスの親睦会の幹事をすることになります。学園のみんなと友達になれると信じる美咲華梨も幹事に立候補し、彼女とかかわることをきっかけにほかのヒロインの羽鳥英玲奈、倉敷瑠璃とも仲良くなる。

 クラスの人気者とクラス内でのイベントをきっかけに交流するようになり、それをきっかけに彼女の属するグループと主人公が仲良くなるってのがみそです。人間関係がつながる管が一つだけだから女の子たちと仲良くなる過程が幸運の連続でなく、親睦会の幹事をやることをきっかけにできたものだから自然なんですよ。もし女の子と仲良くなるイベントが別々だとコミカルなりすぎちゃって後半のシリアスが嘘くさくなっちゃうんですよね。

 それと1巻で主人公の魅力がしっかり出ていたのもよかったですね。主人公はクラスに馴染めない浮いた存在なんですけどね。そんな彼だからこそクラス内での問題を解決できるってストーリーラインは僕らがうちに抱えている自分は自分のままでいるからこそなにか人とは違うものを持っているはずだという願望を解消するカタルシスのあるストーリーになっています。

 ヒロインたちも魅力的ですよね。今回メインとなる羽鳥英玲奈と美咲華梨は本来は主人公と交わらないコミュニティの存在です。しかし、だからこそ、そのコミュニティでは解決できない悩みを自己の内部に抱えていて。それを主人公だけが解決できたというのが読者に納得できる形で示せていたのがよかった。しかも、じつはオタク趣味で主人公と気の合う羽鳥とか、クラスみんなと仲良くなりたい博愛主義の美咲だからこそ問題を抱え込むところとかギャップ萌えでかわいかったですね。

 主人公と女性キャラの仲良くなる過程は丁寧だし、クラス内での問題の発生と解決も自然で主人公の魅力を引き立てていました。面白かったので2巻も引き続き読む予定です。