そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『蜘蛛ですが、なにか?』の8巻と9巻について


蜘蛛ですが、なにか? 8 (カドカワBOOKS)
著者:馬場翁
イラストレーター:輝竜司
レーベル:カドカワBOOKS
発売日: 2018/3/10
出版社: 株式会社KADOKAWA
ISBN-10: 4040724836
ISBN-13: 978-4040724836

蜘蛛ですが、なにか? 9 (カドカワBOOKS)
著者:馬場翁
イラストレーター:輝竜司
レーベル:カドカワBOOKS
発売日: 2018/7/10
出版社: 株式会社KADOKAWA
ISBN-10: 4040727924
ISBN-13: 978-4040727929

8巻のあらすじ
神化によりスキルとステータスを失った蜘蛛子は、一般人以下のお荷物状態になっていた。そんな魔王一行に襲いかかる転生者――狂戦士と化した鬼人。しかも蜘蛛子は最強魔王とはぐれてしまい……これって大ピンチ!?

9巻のあらすじ
鬼くんとのバトルでなぜか糸を出せるようになった「私」。魔王達と共に魔族領に腰を据え、来る日も来る日も糸出しマシンとして働いていたら、ひょんなことが切っ掛けで完全復活を遂げてしまった。案外ヨユーだったぜひゃっほい!神化した「私」のとっておきは転移能力。この世界の外にも出られるほどの力だと言われ、ひらめいた。それってつまり、「私」を勝手に蜘蛛にしやがってくれた世界の管理者、「D」にも会いに行けるんじゃ…!?

シリーズ全体の魅力(1巻から7巻までのネタバレを含みます)

『蜘蛛ですが、なにか?』は、ミスリードと時間軸のずれを利用した群像劇を描きながら、様々な能力をレベルや経験で得ていくことで成長が可視化されるスキルチート、人外という異世界転生のなかで特殊な境遇を必死で生き抜いていくことによるカタルシスが魅力の人外転生の要素を持った異世界転生ものです。

 主人公はとある学校のクラスで授業を受けていた際、異世界からの攻撃で死んでしまう。それから目を覚ますと、主人公は異世界の蜘蛛として生まれ変わっていた。主人公の”私”はエルロー迷宮という上級のモンスターがひしめくダンジョンでレベルとスキルを強化しながら、強くなっていく。
 ここだけなら、ただのスキルチートなんですけどね。1巻から5巻までは、複数の登場人物の視点が交差する群像劇になっているんです。それによると、この話は主人公を含めたクラス全員が異世界に転生する「クラス転生」でさ。クラスメイト達もいろんな人やゴブリン、吸血鬼やドラゴンとして転生する。そして、クラスメイト達の視点は蜘蛛の”私"の時間軸から数年たってからの時間軸でさ。そのへんの話も加味して読んでいくと、僕らは二つの謎があることがわかるんですよ。一つが、主人公の蜘蛛である”私”は誰なのか?、もう一つは数年後、エルロー迷宮でスキルを増やしていった”私”は今、何をしているのか? この辺の謎があるから、主人公視点のスキルチートも爽快感だけでなく、不穏さも感じるんですよ。彼女がこのまま成長していくとどうなるんだろう。もしかしたら数年後、魔王と呼ばれている人物はじつは主人公の”私”なんじゃないかってさ。
 つまり異世界転生ものでありながら、ミステリー要素もあるからさ。ワクワクしながら読めるんですね。そして、5巻のラストで衝撃の事実が明らかになり、6巻から現在の9巻までは壮大なネタばらし。じつは1巻から4巻までの群像劇に足るまでに何があったのかを明らかにしつつ、4巻で”シロ”と名付けられた主人公の”私”の話をやっていく。
 この1巻から5巻までの挑戦的なストーリー構造は是非読んでほしい。
 さらに、6巻も面白いんですよね。6巻では、同じ異世界転生者のソフィアが出てきてさ。ひょんなことから彼女の修行を手伝うんだけどさ。その内容が、1巻から5巻までに主人公がしてきた苦難ってこういうのだよってのがわかる巻になってるんですね。そこがさ、修行回としても面白いし、主人公のチート性が、能力だけでなく精神力も異常なんだよってのがわかるんですよ。
 じつは、6巻からはソフィアの成長物語がサブストーリーとしてあってさ。転生前は恵まれない境遇にいた彼女が、転生後に生き抜こうと努力していくうちに、自身の心の弱さに気づいていくって流れは面白いんですよね。
 で、7巻はドハデな戦闘シーンをしながら、様々な登場人物との対立関係と協力関係を明確にして言ったうえで、主人公の私は今までのチートを失ってしまい、どうなっちゃうのってのが7巻での引きです。
 では、今回は8巻と9巻の魅力をまとめて語っていきます。

シロが力を取り戻すまでの話

 7巻でのある出来事により、白は力を失ってしまいます。それのおかげで、8巻はかなりハラハラしましたね。
 8巻と9巻のメインの敵が剣魔のラース。自我を失い暴走する彼と邂逅してしまったらどうなるのかという不安が8巻では読めば読むほど強くなりましたからね。
 8巻ってストーリー形式がモンスター映画っぽいんですよ。ある化け物がいてさ。その化け物はどうやら異世界転生者らしい。彼が自我を失い暴走しているのがなぜかってのが、彼の過去の視点ととある人物の手記によって明らかになるんだけどさ。手記の人物がある「人の道から外れる行為」を行ったことで化け物が生まれてしまう。フランケンシュタインとかそんな話でしたよね。
 今回、白ちゃんはモンスター映画で逃げ惑う犠牲者の立場でさ。そのモンスターから逃げていくうちに生存者は強くなっていき、ラストでそのモンスターを打ち倒すっていうストーリーラインがさ。白ちゃんが失った力を取り戻す流れに沿っているんですね。だからこそ、中だるみせずにハラハラして読めるんですよ。

ラースについて

 それと、8巻から登場する怪物、ラースは、じつは1巻から4巻の白ちゃんのシャドウとも考えられる。シャドウとは、主人公のあり得たかもしれない未来の姿を現す存在。1巻から4巻までの群像劇では、もしかしたら、今、ダンジョンでつらいめにあいながらも成長する”私”は数年後には強大な怪物としてクラスメイト達と戦う運命にあるのかもしれない、という不安が読んでいると湧くんだけどさ。8巻から登場するラースはまさしくそのミスリードが本当だったらどうなっていたかを描いたキャラクターなんですよ。
 これにより、同じ環境でもそのひとの精神的な気のもちようで状況は変わっていくという6巻でソフィアの修行回の時にやっていたテーマを8巻と9巻でもやっていたんですよ。

今後の期待

 今後の期待としては、ついに主人公のなかにある秘密が明らかになりましたね。これで物語の謎は、なぜこれが起きたのか、という説明につながっていきそうです。数年後の未来によると、魔王の味方についた人物がどういう経緯でそうなったかが、まだわかっていない登場人物もいますので、その辺がどうなるかが気になりますね。
 では、10巻も追って報告いたします。