さて、今回紹介する作品はこちら、『転生特典でコミュ力に全振りしたわたし最強でかわいい』です。
あらすじ
――今度こそ、友達を作りたい! そんな想いを胸に命を落とした超コミュ障は、異世界で死にかけの美少女・エリシアとして転生! そして選んだ転生特典は、天下無敵のコミュニケーション能力。えっ、コミュ力って魔道具や大気中の魔素とも仲良くなれんの? 魔法の才能を認められ王都の魔法学園に通ったら、すったもんだの末に良家のお嬢様たちとも仲良しになれました。念願のリア充ライフを謳歌するもくだらない貴族学校から逃げて今度は冒険者生活スタート!? これは、心から友達が欲しいと願った女の子が、二度目の人生を頑張る物語――。第六回集英社ライトノベル新人賞《特別賞》受賞作品!
どんな話か
コミュ症の主人公、エリシアが間違えて死なせてしまった神様からのお詫びとして、転生特典にコミュ力を頂いたらという話です。
当然のことながら、このコミュ力が人間だけでなく、動物や魔素、無機物にまで影響したため。主人公はどんどんチートになっていきます。
最初に貴族での生活を描き、そこから抜け出して冒険者をはじめる。この辺のストーリーラインは『私、能力は平均値でって言ったよね』の1巻を思い出しましたね。
もちろん、ラインは似てても違うとこのが多く、別個の魅力がありますよ。
まず、冒険者から貴族になる理由がマイルの場合は、女神にされてしまうという神格化の拒否です。秀でた人間だと思われると損をするという平穏系の主人公によくある動機です。
エリシアの場合は、今の学校から貴族だけの学校に転校しなければならないという要請にたいして自由でいたいという反抗です。これは王国という組織優位で行われる人間を自分たちにとって都合のいい能力や血筋でカテゴライズすることに対する批判でもあります。
能力のある冒険者になることは、現代におけるフリーランスになることと同義で。僕らが異世界チートに惹かれるのに、組織から独立した能力のある人間や生き方をしたいという憧れがあるんですよ。
この作品のいいところは、貴族から冒険者になる流れが定番の流れではなく、シリーズ全体のストーリーラインに組み込まれたテーマに一致しているところです。
エミリアは、コミュ力に全振りしたわりには友達がいるリア充になった感が薄い。それは僕らがつい考えてしまう友達のいる人というのが、クラスの人気者のことを考えてしまうからです。でもそれはコミュ力を組織内の人間と協力できる能力と仮定している。
いわゆるチームで動けるワンピースのルフィみたいな人ですね。
『コミュ力全振り』の場合は、あくまでコミュ力は仲良くする力でなく、さまざまな垣根を超えて会話する能力なんですよ。そして、それは本来の意味のコミュニケーション能力の意味に近い。
だからこそ、ラストで彼女は自分が仲間になったキャラクターたちと協力してゴブリンの集団と戦うんですけどね。
あれもまさしく組織を、個人どうしを認め合ってできた仲間たちのつながりで倒すっていう本作のテーマに沿った流れなんですよ。