そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

バトルロワイアルにさようなら!『おにぎりスタッバー』について

さて、今回紹介する作品はこちら、『おにぎりスタッバー』です。

おにぎりスタッバー (角川スニーカー文庫)

あらすじ
中萱梓。愛称アズ。
見た目も成績も地味なのに「なんか援交だか売春だかをやっているらしい」という噂によって、クラス全員に避けられている。
彼女があの時男を連れ込んで、俺が台所にいて、まあいわゆる修羅場になったせいで、魔法少女やらおにぎりやらが出てくる奇怪な事件が始まったんだが、そんなのは些細な話だ。俺が誰かも気にしなくていい。
だけどどうか彼女の話を聞いてやってくれ。

おもしろいですよ。太宰治の『女学生』やよしもとばななを思わせるようなリズミカルな文体で語られるのが、0年代ライトノベルを思わせる世界観。さらに、彼女自身や彼女の母親や父親の設定、最終話のボスキャラからは今の時代性を感じます。今回はその辺を話していきます。

リズミカルな文体

読んでてビックリするのがさ。かなり硬い文章でありながら、リズムカルな文章でさ。例えるなら太宰治さんが書いた女学生みたいな文章なんですよ。
だから、読むのは最初、大変だったんだけどさ。慣れると、彼女が語る世界観に没入できますね。
かなりギチギチに硬いってわけじゃなくてさ。若干よしもとばななっぽいとこもあるからさ。太宰治さんとよしもとばななさんの中間って言ったほうがいいかな。

0年代ライトノベルの世界観

でさ、とっつきづらいかと思えばさ。じつはこの話は魔法少女やエクスカリバーが出てくる異能系の話でさ。
内容がさ。ブギーポップみたいな。力を持った若者たちの戦いの話もちょっとはいってるんですよ。
でありながら、それと比べると違うところってのがあってさ。それが今と昔の違いだよなと思いますよ。

さようなら争い、こんにちは日常系

主人公がさ。じつは特別な存在なんですってのが。この作品の序章なんだけどさ。彼女はそうした特別な存在でありながら。大きな物語の登場人物であろうとしないようにしていると思う。

たとえばさ、彼女はおにぎりってヤツに狙われるかもってとこではじまるんだけどさ。てっきりさ、俺はおにぎり対彼女の戦いがはじまるかと思ったらさ。結局、それははじまらなくてさ。次の話では恋のライバルがとか。海に行こうとかさ。普通の日常をやる。

こういうさ、ラノベ的な前振りをしながらも、それを無視していくって流れがさ。脱争いの話に見えるんですよ。

ブギーポップとか、嘘つきみーくんとかのさ。ライトなキャラによる殺伐とした争いの世界を引き継いだ上でその争いをしないってのがさ。この話の肝なんだけどさ。

その世界観の元はなにかと言えばさ。バトルロワイアルっていう、教室で殺し合いをはじまるデスゲームの元祖が元でさ。

このバトルロワイアルがなにかと言えばさ。受験勉強とか、スクールカーストとかさ。学校内で順位が決まり、将来が決まる世界での思春期の心の荒みってのが根底にあるわけなんですよ。

でさ、主人公は母親からの遺伝で異能を受け継いでんだけどさ。その母親とはなにかと言えばブギーポップ世代の後の世代を表しててさ。そんな彼女が親の特質を受け継ぎながらも、その力で戦わないってのがさ。
いわゆる、学校内争いなんてもうやらないよねっていうさ。バトルロワイアルからはじまった争いの終わりとその後の日常を描こうとしているんですよ。

そう考えるとさ。2話で主人公と敵対するヒロインがスクールカーストの頂点だとか。魔法少女がある代償として戦わなければいけない相手がクリスマスだとかもさ。わりと一貫したテーマであることがわかる。

今回は言葉足らずにしまったんだけどさ。本当にスゴイ作品なので、オススメです。