そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『常夜ノ国ノ天照』について

さて、今回紹介する作品はこちら、『常世ノ国ノ天照』です。

常夜ノ国ノ天照

あらすじ
『天照』――それは、若く、まばゆく、常夜を照らす、光のむすめ。

隻眼の女子高生、火野坂暁が迷い込んだのは、真っ暗な異世界だった。
窮地を救ってくれた英国紳士のミニ・クーパーや〈良い飴屋〉と名乗る男が率いるヒガシ町の男達と共に、自分の命を執拗に狙うニシ町と戦うことになった暁。
決して明けぬ夜空の下に渦巻くのは、〈ニシ町〉の男達の欲望、〈ヒガシ町〉の男達の哀しみ、そして途方もない〈絶望〉の影。
そして、この国で唯一の女――『天照』の本当の役割を教えられた時、彼女はある決断をする――。

「わたし、誰にもいなくなってほしくない。みんなといっしょに生きていたい」

カクヨムURL
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154938697

小説家になろうURL
https://ncode.syosetu.com/n6812dg/

第一回カクヨムWEBコンテストで特別賞を受賞しています。
いい作品ですよ。文章力があるし。世界観もいい。第一回カクヨムWEBコンテストの受賞作はなかなかの豊作ですね。どの作品もオススメですよ。
読んでて、作者の手のひらで踊らされている自分がいましたよ。まず世界観に驚き、次々と現れる敵に不安を抱く。驚き、困惑し。感情のボルテージマックスに達した時にあのシーンが挿入されるってのは憎い演出ですよ。

今回は、常夜ノ国とはなにか、不思議の国のアリスのストーリーラインについて語っていきます。

目次

常夜ノ国とはなにか

やはり、世界観とそれに内包されているテーマが魅力ですね。

主人公の火野坂暁は、精神的にかなり弱り、現実世界から逃げ出したいと考えたその時に、常夜ノ国に招かれる。

常夜ノ国ではヒガシ町とニシ町に分かれて戦争が行われていた。

ヒガシ町とニシ町の住民たちには固有名詞がなく、《良い》飴屋、《悪い》鉄屑屋と呼ばれている。
彼らの性格は時々反転することもあり、ヒガシ町の《良い》〇〇屋がニシ町の《悪い》〇〇屋になることもある。

それの象徴として店に飾られている仮面の色が変わり、《悪い》〇〇屋は顔を隠そうとする。

残虐な行為を嬉々としてやるニシ町の住民の姿は『シャイニング』や『13日の金曜日』的な狂人に追われる恐怖が上手く表現されています。それプラス、《良い》〇〇屋から《悪い》〇〇屋への反転は互いへの疑心暗鬼を煽る感染ものとしての緊張感を与えてくれます。

良い世界観です。

この世界観が魅力的なのは、僕たちにとって常夜ノ国が、感情移入できる現実世界に存在する理不尽さを暗喩しているからです。

僕たちのほとんどは無意識のうちに見ないようにしているんですけどね。あるじゃないですか、大人や周囲を信用できないと考える思春期に差し掛かった少女が、悪い大人によって、抜け出せない地獄に落ちましたって話はさ。

そりゃ、最近は明るいニュースは多いですよ。

でも、悲惨な事件はなくなったわけでなく、むしろ常態化しているから報道されないだけで、無知な人間を騙そうと考える人はいます。

それによって、引き返せないドン底まで落ちてしまった状態。それが常夜ノ国です。

不思議の国のアリス

読み終えて、わかるのが。この作品が『不思議の国のアリス』をオマージュにしていることです。

それはラストを読めばみんなわかることでしょう。

この作品が「不思議の国のアリス」を土台にしていると考えれば、作中のラスボスである少年がどういった存在なのかがわかります。

彼は「不思議の国のアリス」のハートの女王でしょう。

ハートの女王とは、不思議の国でアリスが出会うワガママな女王です。

アリスは、終盤でハートの女王の生き方を否定することで、彼女を怒らせ、アリスは夢から覚め、現実世界に帰ります。

逆に常夜ノ国の火野坂暁は、少年の渡すリンゴをかじることで、彼の考えを一度でも受け入れてしまう。だから常夜ノ国から出られない。

リンゴは神話では知恵の象徴ですからね。それを食べることは、少年の考えを受け入れることにつながるんです。

さらに、「主人公と敵対する存在は主人公のありえた未来の姿、あるいはもう一人の自分である」という、シャドウの法則で考えれば、少年は主人公のありえた未来だと考えられる。

では火野坂暁はなぜ少年のようにならなかったか。それは彼女にはクーパーがいたからだ。彼の存在により、彼女は過去の罪を告白し、常夜ノ国で生きる決意をする。

常夜ノ国の魅力はシャドウの法則をしっかり意識して書いているとこですね。少年が火野坂暁と正反対のキャラになるよう綺麗に描ききっています。


魅力的な世界観と、不思議の国のアリスを下地としたシャドウのストーリーライン。一読すべき作品ですので、ぜひ読んでください。