そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『父さんな、デスゲーム運営で食ってるんだ』について

さて、今回紹介する作品はこちら、『父さんな、デスゲーム運営で食ってるんだ』です。

父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ (Novel 0)

あらすじ
デスゲームは誰もが参加を渇望する一大エンタテインメントとなっていた。これは革新的で刺激的なデスゲームを次々と発表し、卓越した運営手腕と恐るべき強運で数々の危機を乗り切る中間管理職・黒崎鋭司の物語だ。上司の無茶ぶり、部下の期待、市場のニーズには応え続けなければならない。時には同業他社や参加者から恨みを買い、巨乳の美人部下から尊敬以上の愛情を向けられても、決して動じてはならない。なぜなら、愛する妻子の生活がかかっているから。そう―父さんな、デスゲーム運営で食っているんだ。

カクヨムのURL
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881423791

元々は漫画でさ。それの小説版がこちらです。面白いですよ。デスゲーム運営者という切り口は新鮮ですし、キャラも可愛い。設定や世界観を利用した多様な短編集は魅力です。

今回は下の目次の通りに紹介します。

目次

子煩悩なパパが主人公

主人公の黒崎鋭司はデスゲームの運営者です。デスゲームものってのは昔からジャンルとしてあったんですけど。運営する側が主人公って作品は珍しいですね。
ジャンルがある程度成熟して来た証拠だし。時代の流れってのもありますね。
黒崎鋭司の周りには魅力的なキャラがいます。
巨乳のできる部下、山羊山紫乃。妻の華蓮。娘の美咲。
可愛い女の子もいますし。便利な科学者キャラもいますね。
面白いのが、彼がパパとデスゲーム運営者の二つのキャラを持っている点です。家族ものとして微笑ましい話もあるし。デスゲームを運営するに当たっての苦労話。部下と上司との不倫未満の淡い関係。ある特殊な方法で攻略しようとするプレイヤーをどうやって倒すか。みたいな、短編のストーリーの幅が広いし、それでいて一貫した世界観を保っているんですよ。
魅力的なキャラとの人間関係による主人公のキャラの変化ってのが、ちゃんと一人の人間として描けている証拠ですね。
そして、家族を持ちながらデスゲームの運営をしている斬新さが、今の時代の変化を表しているようにも読めるのがいい。
次の賞はそのへんについて話しましょう。

デスゲームについて

そもそも、デスゲームのはじまりとして見過ごせないのが、『バトルロワイアル』ですね。
中学生の子供たちが、無人島に閉じ込められてそこで殺しあいをするって小説です。映画化もされましたね。

バトル・ロワイアル 上  幻冬舎文庫 た 18-1

バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1

思春期の少女による殺人事件なんかも起きてさ。その子がバトルロワイアルを観ていたことも、当時、僕が小学5年生の頃に話題になりましたよ。
でさ、この作品をきっかけにデスゲームというジャンルができてさ。仮面ライダー龍騎、王様ゲーム、リアル鬼ごっこ、神様の言うとおり、リアルアカウントなどの作品ができました。
この流れをつくったバトルロワイアルがなぜ当時の子供たちの心をつかみ、今もジャンルとしてあるのかと言えばさ。
子供たちにとって、大人によって殺しあいをさせられる世界ってのがとてもリアリティのある話だからなんですよ。
僕らは学校という狭い場所に入れられてさ。テストとか、部活とかで競い合いをさせられる。その競い合いの前提としてあるのがさ。ホームレスになるかもしれない、低賃金の仕事にしかつけないかもしれないという漠然とした恐怖と不安です。
これがいじめの原因になったり、クラスカーストをつくることになります。
その漠然とした不安を、肯定する形で具現化したのがバトルロワイアルなんですよ。人によっては身の毛もよだつグロテスクな光景なんですけどね。不安が形になるというのは、一種の癒しなんですよ。
たとえば、『アナと雪の女王』。あれがなぜ流行ったかといえば。自分の中に隠さなければいけない部分があった雪の女王のエルサがさ。途中でこれでいいのってさ。雪の魔法をガンガン使うじゃん。そうやって孤独になっていくことで本当の自分をあそこまでさらけ出せるのってのがさ。メチャクチャ綺麗に描けているのがさ。人によっては癒しになるんだよ。

アナと雪の女王 (字幕版)

アナと雪の女王 (字幕版)

デスゲーム運営にだって家族がいるの時代

そんなわけでさ、デスゲームというのが流行る土台や社会的背景ってのがちゃんとあってさ。あんなのがあるから子供がダメになるって発想はさ。子供の気持ちを考えてなさすぎるんだよ。
でさ、この作品の面白いところは、デスゲーム運営者に家族がいるってとこだって言ったじゃないですか。
これはさ、デスゲーム全体の流れなんだけどさ。最近ちょこちょこデスゲームをお笑いの素材として使われてるんですよ。
バーチャルユーチューバーのげんげんとか、ジャンプ+で次回のデスゲームにご期待くださいってギャグ漫画の連載が始まりましたよね。
こういうジャンルのパロ化、メタ化が起きてるってことはさ。それができる余裕があるってことだとも思うんですよ。
デスゲームが自分の現在でなく、過去や冷静に分析できる事実になっててさ。だから、デスゲーム運営者にも家族がいるんだよなって発想も出てきたんじゃないかな。
そんなわけで、わりとオススメな作品なんでぜひ読んでみてください。