そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

異世界おじさんについて

 異世界転生、今となっては当たり前のWEB小説での王道だ。事故、事件、神様や権力者の気まぐれや思惑によって。一人の少年が異世界へとやってくる。そんな彼は様々な思いを胸に、あるものは新しい人生を、あるいは世界を平和にするために、または元の世界に戻るために。誰もが知っている未知の異世界を冒険する。
 2019年、現在においてはアニメ化の影響もあって。だいぶメジャーなジャンルとなった。しかし、この異世界転生もの、じつは元となるサイト小説家になろうがオープンしたのが2004年、大ヒットしたのは2009年のSAOから。つまり、10年も変わらずに独自に進化してきたガラパコス的な文化なのだ。

 そういう過去と現在という二つの点を一つの線で結ぶ。それが今回紹介する作品『異世界おじさん』です。

 『異世界おじさん』はコミックウォーカーで連載中のWEB漫画。

 主人公のタカフミは、行方不明となっていた叔父さんを迎えに病院に訪れる。
 そんな彼に対し、叔父さんは異世界語で話しかけ。自分は現実世界に帰ってこれたことをあっけらかんという。
 叔父さんの言葉を狂言としかとれないタカフミは、彼に生活保護を勧める。
 このままだと見捨てられることを察した異世界おじさんは、異世界で使えた魔法をやってみせる。それに驚いたタカフミは、その力をYouTubeで流すことを提案。これにより、彼らは収入を得て、二人三脚での現実世界での日常がはじまる。

 初見の印象は、『聖☆お兄さん』。なにか大きな事件が終わった後で。誰しもが知っている異世界から着想するネタを日常パートで上手くギャグ化する。
 物語の導入である一話は、異世界転生から帰ってきた勇者が普通の人からしたら精神異常者のようにみえるという、『帰ってきたヒトラー』のようなブラックなジョーク。
 2話からはタカフミとおじさんとの日常との同時進行でおじさんから語られる異世界の話が凄い面白い。

 おじさんの過去話の聞き手はゲームやアニメで異世界に憧れるタカフミ。
 異世界の話に期待するも、語られる内容は、お決まりのテンプレをその世界でのリアルで否定する”異世界なめるな”系。
 さらに、それを面白くしていくのが魅力的なヒロインたち。
 本名不明のツンデレエルフ。凍刃の眠り姫、メイベル。冒険者のアリシア。
 彼女たちと出会い、ラブコメに発展するかと思いきや。毎度毎度お約束を破る。
 これのいいところは、これがすでに終わってしまった過去のことで、現実世界に戻ってきたおじさんは異世界に戻ることはない。
 つまり、閉ざされた可能性の中の可能性である点だ。
 わかりやすく言えば、「やれたかも委員会」。
 もしかしたら、恋愛に発展したかもしれないという可能性の話だからこそ。
 失ったものとしての魅力ってのが湧くんですよ。

 しかも、ヒロインたちのおじさんに対する好意にたかふみだけが気づくからこそ。ギャグとしてオチている。

 3巻まで行って、おじさんの物語も謎が深まってきているし、現実世界でのタカフミとヒロインの恋も気になるところだ。

 4巻が出たら、追って報告いたします。