そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『衛くんと愛が重たい少女たち』について

 今回紹介する作品は『衛くんと愛が重たい少女たち』です。

 

衛くんと愛が重たい少女たち (ガガガ文庫)

 タイトル通り、愛が重い少女たちの頂上決戦。表紙の左の童顔の男の子をめぐる女性たちの心理戦が読んでて心地いい作品だ。

 序盤、読んでいて驚いた。主人公は姉に歪んだ愛を向けられた弟。彼女に矯正された形で女装させられ、SNSに自撮りを投稿させられる。

 ネグレクトの形として、SNSを使わされる作品は初めて見たので、ウッ……となった。主人公の気持ちを考えたら息がつまるような感覚を抱いた。

 それが彼の家での日常だった。家から学校の場面に移る。

 彼は幼馴染に恋心を抱いている。しかし、その幼馴染は別の人と恋人になっている。

 いろんな日常的なやりとりの後、放課後に彼氏と幼馴染がキスしているところを目撃する。

 姉からのネグレクト、幼馴染への失恋のショックから立ち直るため、自殺するフリをする主人公。そんな彼が本当に自殺しているのでは、と止めたのはアイドルを辞めて田舎から帰ってきた従姉妹の京子だった。

 こっから、視点が京子に切り替わる。

 主人公を振り向かせたくて、アイドルになった京子。幼い頃から、主人公のことが好きだったが、振り向かない彼に対して一方的な恨みを抱いていた。

 そして、その恨みは自分に惚れさせた上で振ることで復讐を果たそうとしていた。

 序盤の主人公の鬱鬱とした心理描写を読んだ身としては、中盤の京子のネジの飛んだ心理描写に心が救われた。

 主人公の周囲にめんどくさい女が2人もいて、散々ヘイトを稼いでいたため、京子のめんどくささが萌えキャラとして可愛く読めた。

 京子は自殺しようとする衛くんをみつける。

 彼の自殺を止め、話しているうちに気持ちが盛り上がり、彼に告白する京子。

 友人には復讐のために主人公を振ってやるんだと言っていたのに。実際に会ってしまったらその日のうちに付き合ってしまう。

 衛くん視点でのシリアスな描写と京子ちゃんのコミカルさのギャップがとてもよかった。

 また、今回はヒール役としての立ち回りが目立った幼馴染と姉の今後も気になる。

 彼女たちが衛くんに与えている問題。あるいは彼女たち自身が抱えている問題は、どう解決すればよいのか、と思わせるものばかりで、この点がとても続きを気にならせた。

 続刊も引き続き読みたい。