そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

俺たちは亀をみつけたのか? 夏目漱石の『三四郎』から山田玲司の『Bバージン』で読み解くストレイトシープ問題

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』って知ってますか?
 SF作家、フフィリップ・K・ディックの著作で、最近話題の『ブレードランナー』シリーズの原作です。
 舞台は第3次戦争後の世界、そこで賞金稼ぎのデッカードは8人のアンドロイドの首を狙う。だけど、アンドロイドたちはそれぞれ事情があって、読んでいくうちに僕らは自分にこんな問いかけをおのずとしてしまう。
 アンドロイドの彼らは俺たちと変わらないんじゃないんだろうか。俺らと同じように彼らも、羊の夢を見るんじゃないかって。
 なんでそんな問いかけが生まれるんだって話じゃないですか。
 もちろん、主人公のデッカードが屋上で電気羊を飼っていて。それを本物の羊にしたいからなんですけど。
 べつに羊じゃなくても、カエルやクモ、あるいはフクロウであったっていいじゃないですか。なぜ、羊を夢見ることが人間性の証明となるのでしょう。
 その理由は他の羊を取り扱った作品を読むことでわかります。
羊が手に入るはずのないモノの暗喩だからです。

 羊と言えば思い出すのが。夏目漱石の書いた作品、『三四郎』です。
『三四郎』とは、東京の大学に進学する田舎から来た青年、三四郎が、先生、美千代、与次郎などを通じて自己を見つめ、最後には個展に飾られている森の女という題の絵の前で、この絵は森の女でなく、迷い羊がふさわしいと言って終わるって話です。
 迷い羊(ストレイトシープ)の意味とか、与次郎が語る偉大なる暗闇ってなんだとか、なんで美千代は三四郎に自分に気でもあるかのようなふるまいをしたのかってのがよく考察されますが。この作品、ようは明治時代の大学に進学する若者の迷いや葛藤を描いたものです。
 三四郎は、序盤で自身の価値観がひっくり返ってしまうような経験を二回します。ひとつが東京へ行く途中の列車で出会う女性。結婚してるんだけど、旦那さんは遠くで出稼ぎに行ったまま消息が不明で。お子さんは戦争に行ったきり帰ってこない。実質、未亡人みたいな女性とさ。ひょんなことから一緒の部屋で泊まることになります。次の日の朝、奥さんと別れる寸前で。「あなたはよっぽど度胸のない人だって」とさ、三四郎は言われて。彼は「23年の弱点が一度に露見したような」衝撃を受けます。これ、まだ10ページそこらしかいってないですよ。
 でさ、女なんてろくなもんじゃない。俺は大学生なんだから勉強するんだ。勉強して日本のために働くんだって思ったところでさ。現れるのが先生だよ。先生はさ。日本は戦争なんかして勝った勝ったと言っているけどお先真っ暗だよって言ってさ。
 三四郎もさ。いやいや、そんなことないじゃないですか。日本はこれから発展していきますよって言うんだけどさ。
 先生は自嘲気味に日本は滅びるねって言ってさ。また三四郎は衝撃を受けるんですよ。
 でさ、そんな女性に対する恐怖に近い体験と、これから学問をやろうって時にそれをやる意義を見失いかねないようなことを言われた三四郎はさ。美千代や先生、与次郎、広田さんとかの出会いを通してさ。三つの世界が自分の中にあるっていうんだけどさ。ようは俺、将来なんになろうみたいなものでさ。
 田舎のお母さんを安心させるためにちゃんと仕事に就くか。それとも、広田先生のように学問に身をとおじるか。あるいは美千代さんと恋に落ちるか。の三つのことで悩んでるだけなんだよ。
 やってることがさ、アオイホノオと変わんないんだよね。
 あれもさ、ホノオモユルは漫画家を目指しているんだけど、庵野さんと同じクリエイターの道に行けるのかって悩みつつも。トンコさんとの恋愛にもうつつぬかしているわけじゃん。
 庵野が広田でトンコは美千代。先生は岡田斗司夫だと考えられます。

 もし、漫画が廃れた何百年後の未来の人に、『アオイホノオ』と『三四郎』を読ませたら。この作品はどちらも同じような話だって分析しますよ。

 『アオイホノオ』の場合は、親との確執だけ抜けているんだけどさ。これは明治の頭のいい人の悩みの種だった。親のために学問を志したけど。学問は親が望んでいたような結果を与えてくれるようなものじゃないことに勉強している当人らは気づいててさ。それでも、学問の価値はそんなものじゃないんだもっと意義のあるもの、あるいは面白いものなんだと思うんだけどさ。東京に送り出した親はさっさと安定した仕事について出世してくれと考えている。これが明治の人の「近代的な自我の確立」みたいなものなんだよ。

 そう考えるとさ、大学全入時代とか。モラトリアルとかいうけどさ。今のほうが明治よりもよっぽど学問に対する考え方がいい方向に変わっていると思うよ。

 でっ話し戻すけどさ、この三つの可能性にさ。三四郎は絶望しちゃったもんだから。美千代を模した絵の前でストレイトシープと唱えるしかなかったんですよ。現代風に言えば、大学デビューしようとした男が、失恋して、単位を落とした結果、引きこもってPCに写る二次元の女の子を見ながら、「俺の将来お先真っ暗だよ」って言っているのが、あのストレイトシープなんです。

 羊が見つからないよと嘆く三四郎。じつは日本人のストレイトシープ問題はここで終わらない。この問題を引き継いだのが、村上春樹さんの書いた『羊をめぐる冒険』です。今から話すはなしは大学の時に学んだ話がもとになってます。大学の講義で聞いた気がするし。卒論を書くために調べてたら読んだような気がする。あるいはお酒の席で聞いたのかもしれない。

 元ネタが思い出せないんですけども。村上春樹の『羊をめぐる冒険』は夏目漱石の『三四郎』を意識してるって論文があったんですよ。たしか。

 言われてみりゃ露骨じゃないですか。あれ、三四郎が見つけられなかったストレイトシープを探しに北海道に行く話なんですよ。んで、探しに探してみた結果さ。羊は見つからなくて。主人公の親友は羊と一体化して死んじゃったって話ですよ。

 村上春樹と言えばさ。喪失感を描いている作家だみたいな話ってよく論文に書いてあったんですよ。村上さんの世代は学生運動が盛んでさ。彼らはその運動で社会の理不尽な部分を変えたいと願っていた。でさ、村上さんはその真っただ中にいたけど、参加していたわけではなかった。たぶん見ている側だった。『羊をめぐる冒険』でも親友は先に羊を探しに言ってさ。主人公は後から追いかけるように羊を探した結果。それは手に入らないものだと知る。

 学生運動も結局は社会を変えることのできないものだと知り、その喪失感がこの人の作品が最近まで妙に辛気臭かった部分のもとだったんだよ。

 だけど最近さ、あのひとも『騎士団長殺し』でさ。ついに騎士団長を殺すことで、捕らわれていた少女が解放されて。小さかった胸がちょっと成長したのって主人公に言ってたじゃん。

 つまり、自分の中にいる少女は過去の想いに捕らわれてその処女性を保つと同時に止まった時のなかにいたんだけど。自分の過去と向き合うことでついに過去の自分を打ち倒して自分の時間も動き出したよって言ってたじゃん。

 でさ、冒頭で何としてでも顔のない男の肖像画を描いてやろうって言ってたけどさ。つまり、今までは俺の中のリトル騎士団長に邪魔されて、過去の自分の話を。学生運動の話を書けなかったけど。次の新作ではそのことについて書いてみせるよって言ってたからさ。よかったね村上さんって思ったよ。

 っで、話を戻すんだけどさ。今まで紹介した作品で分かるように、羊ってのはさ。だいたい手に入らないものなんだよ。『アンドロイドは電気羊の夢を見る』でもさ。デッカードは羊が欲しいんだけどさ。結局、最後まで自分のものにできなかったんだよ。でっ、代わりにあるものを見つけるって話なんです。
 そんな羊をさ。大学生の三四郎も見つけられなくてストレイトシープと言ってしまうわけなんだけどさ。

1991年に、俺とSMAPが生まれた年にさ。ある漫画家がその問題に一つの解決策を提示しました。
その漫画家の名前が山田玲司。

山田玲司とは、日本の漫画家です。現在月間スピリッツで『CICADA』を連載しながら、ニコニコ生放送で『週刊ヤングサンデー』を配信しています。環境問題と恋愛問題に対して深い関心と知見があり。映画、世相、恋の悩みを独自の見解で切り開く漫画や新書を多数出版しています。『アガペーズ』や『NG』、『ゴールドパンサーズ』とか。どれも面白いですよ。

彼は1991年に『Bバージン』の連載を開始しました。
 『Bバージン』とは、生物学オタクでカメが大好きな主人公がさ。イケイケの姉のプロデュースによってイケメンに変身して大学デビューするんだけどさ。そこで高校の時から好きだった女の子に姉仕込みの恋愛テクニックでアタックするも。モテるひとは嫌いだと言われてさ。それで、どうやって彼女落とすのかって話になるかと思ってたんだよ。

 思ってたってことは、つまりいい意味で裏切られるんだよね。

そもそも、Bバージンを読もうと思ったきっかけが岡田さんと玲司先生の対談を聞いてからでさ。1巻を読んでいるときはさ。克亜樹さんの『ふたりえっち』とか、ジブリの『耳をすませば』みたいなさ。ためになるんだろうけど、俺には関係ない本だと思ったんだよ。

 ほら、おそ松さん2期でさ。おそ松たちの父の松造を童貞だったころの気持ちを思い出させる修行をするシーンでさ。二つのエロ漫画のうちどう見ても『ふたりえっち』のパロディ本を選んだ松造にさ。そんなん童貞の選ぶもんじゃねぇってさ。プロレス技をかけるシーンあるじゃん。それと同じでさ。童貞オタクはこっちを選ばないと思ってたわけよ。

 でも3巻でさ。大学生らで雪山行こうぜって話があるんだよ。このあたりでさ。おやおやって思ったよ。主人公がさ。生物学オタクでさ。てっきり、そんな重要な伏線じゃないと思ってたんだけどさ。じつは本当にいいシーンではその動物の知識が生かされてたりするんだよ。それでさ、これただの恋愛講座マンガじゃねぇぞって思いましたね。

 でさ、ある時、主人公の信じていた姉の恋愛テクニックってのが、じつはまやかしで。好きな女の子を手に入れるにはそれだけじゃダメなんじゃねぇのかって話になるんだけどさ。そのときに出てくるのがさ。俺がだれにも負けないことってなんだっけって話になってさ。6巻くらいの時にさ。大学を中退して水族館で働くんだよ。

 『三四郎』は学問と女性と親が期待した未来の三つに対して絶望してストレイトシープというわけなんだけどさ。『Bバージン』も比率が違うだけで同じストーリーラインをたどっててさ。水族館で亀を見ながら夢の中での亀との対話を思い出して、そうだ俺には亀があるじゃないかというシーンがあるんだけどさ。あそこは『三四郎』のラストの続きでさ。羊を探すってのがどういうことかって話をしているんですよ。

 ざっくりした説明だけど気になったら読んでみてください。

 でさ、山田玲司がストレイトシープ問題に対してどんな解決策を言ったのかと言えばさ。羊を探しに行くなら亀を探せって話なんですよ。今まで話したようにさ。羊って言うのは掴みどころのないふんわりとしたものなんだよ。『三四郎』も村上さんもさ。外側の人間の言うことだったり事件だったりに動かされてさ。何かが欲しいって状態なわけでさ。そんなとらえどころのないモノは手に入らないんだよ。
 だから、村上さんも騎士団長を殺すしかなかったんでしょ。
 じゃあ、なんで亀ならいいのかといやさ。亀ってのは海からくるわけじゃん。海ってのはすべての生命の源だよ。つまり、亀オタクの男の子が姉やホストから教わったテクニックじゃなく元からある亀の知識で成功して彼女に告白しようって考えはさ。つまり自分を構成する源を顧みて、本当に自分がしたいことを見つけろよっ玲司先生は言ってるんですよ。

 ゴジラとかさ。あれ、初代は戦争のとき恨みつらみだし。庵野さんがつくったシンゴジラだと原発って不安が具現化したもんでしょ。ふんわりとしたものがちゃんと原因をつきつめて形になると海からやってくる爬虫類になるんだよ。

 でさ、ラストを読んだ限りではさ。そういう、外からつくられた自分よりも、自分の内からわきでるものを形にして。中身のある人間になればさ。そこでようやく亀なんか見てたのしいってさ? 自分の中身に興味を持ってくれるようになるよってさ。玲司先生は信じてるらしいよ。

 とまあ、羊を探したら亀を見つけた話をしたんだけどさ。でっ、現実問題、玲司先生が言うように何かに憑りつかれて生きてきた三四郎がさ。ストレイトシープと言い出した時に、自分をみつめて亀を探すことができるかと言えばさ。そんなことはなくてさ。大人になっても羊を探す人はいると思うんですよ。
 そもそも、三四郎は漱石三部作の序章に過ぎなくてさ。大学にいるうちに答えを出すことのできなかった彼はさらなる心の迷宮に迷い込んでいくわけでさ。けっきょく、最後まで羊を探しちゃったわけだしさ。

 じつは最近、連載を止めていた自作の更新を再開しました。

 エデンプロジェクト、あるひ世界に現れたゾンビたちと戦う思春期の少年、少女たちと大人たちの話です。

その作品の中にも羊を探し続けている男が出てきます。名を山本孝守。考えを守る男と書いて孝守だよ。今回、長々と語ってたのはその宣伝をするためだったんだけどさ。1500字で終わらせるつもりだったのに長くなっちゃったね。

 孝守くんは、受験戦争を必死で生きた男の子でさ。頑張って頑張って、大学で初めての恋をして医大を出てお医者さんになって。息子ができて。幸せになれたはずなのに。自分の中に何かを失ったかのような空虚さをもっている。そんなキャラになる予定です。

 まあ、だいたいが予定なんですけどね。

 そんな彼がこの前、頭のいかれた主人公の特殊能力のおかげでゾンビからヒトに戻るところまで更新しました。23話。ようやく、9千字突破しました。

 R-18なんで人を選ぶかもですが。気になる方はぜひヒトとゾンビとの闘いを描いたエデンプロジェクトを読んでみてください。

novel18.syosetu.com

 

 

今回挙げた作品

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

 

 

三四郎

三四郎

 

 

 

 

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

 
羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)

羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)

 

 

 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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