そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『令嬢エリザベスの華麗なる身代わり生活』2巻について

さて、今回紹介する作品はこちら、『令嬢エリザベスの華麗なる身代わり生活』2巻です。
令嬢エリザベスの華麗なる身代わり生活 2 (ビーズログ文庫)

あらすじ
馬車の襲撃犯に一矢報いるまで身代わりを継続することにしたエリザベス。腹黒シルヴェスターとは共闘することになり、情報収集のため嫌々ながらも彼と“恋人のフリ”をして舞踏会に参加することに。ところがそこへ婚約者のユーインが現れ、エリザベスとの婚約破棄を宣言!!醜聞まみれとなったエリザベスの前に、今度は本物のエリザベスが出没し!?

カクヨムのURL
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881887008

小説家になろうのURL
http://ncode.syosetu.com/n0942do/1/

目次

『令嬢エリザベスの華麗なる身代わり生活』とは

ザックリ言うと、同じ顔の女性による入れ替わりもの。古くは『とりかえばや物語』からはじまり、『ターンエーガンダム』、『チェンジ』などもありますね。

こんな話です。

牧場を経営するマギニス家の令嬢、エリザベスマギニスは、二年間の花嫁修業を終え、実家に戻ろうとすると矢先で、公爵家の嫡男、シルヴェスター・オブライエンに彼の妹であるエリザベス・オブライエンに間違われてオブライエン家に連れ去られます。
後で、誤解だとわかるんですが。シルヴェスターは、エリザベス・マギニスに婚約発表をすっぽかした妹のエリザベス・オブライエンの身代わりを務めてほしいと言います。
彼女は嫌だと言うんだけど、シルヴェスターは協力する見返りに、報酬をよこす、それで嵐で壊れた牧場を直せるだろうって話すんですよ。
彼女には実家を復興するためのお金が必要だったんですよ。
それでさ、嫌々エリザベス・マギニスはエリザベス・オブライエンのフリをするんだけどさ。そしたらさ、オブライエンがやったいろんな悪事がどんどん掘り出されちゃってさ。その悪事のしっぺ返しをマギニスがかぶる形になってしまう。それを彼女は自身の機転でうまく退けてさ。
エリザベス・オブライエンってなにしてたんだよって、読者が気になってくるところで1巻が終わりました。

1巻は全体的になぞかけ回でしたね。入れ替わりがバレるかもしれないという緊張感を持たせながら、名前しか出ないオブライエンに対する興味を煽り、彼女と正反対なエリザベス・マギニスの魅力を強調していました。
と、同時にオブライエンと正反対だからこそ、婚約者のユーインとシルヴェスターは惹かれるんだよというのが、ちゃんとトキメキアクションを入れつつやってましたね。

2巻はそこを強調しながら、シャドウの話に移行しているのがわかります。

シャドーがいることの恐怖

令嬢エリザベスの恋愛ものとしてのストーリーラインはさ。頭の軽そうなあの子よりも、会社のために残業しているキミの方がステキだよって話なんですよ。

ネットの女性向けの異世界転生ものでもあるんですよ。
マジメに仕事をしてる女の子がさ。ある日、過労かなんかで死にました。あるいは転移しました。
そしたらさ、向こうでは倦厭されていたその子のマジメさや頭の良さがさ。マトモに事務ができる人のいない異世界では歓迎されてさ。
最初は反発してたオレ様王子も、ある日しゅんとするような事件を境に主人公に興味を持ち。たまたま同僚になった、あるいは上司のイケメンにも好かれる。

つまりさ、いい会社に転職できましたみたいな話だったりするんですよ。

自分の本当の内面や能力が評価されたいって願望がさ。男性よりもあるなってさ。女性向けの異世界転生読むと思いますよ。

頭の軽いあの子よりも、マジメに頑張っている自分が評価されるべきだ。今回もその願望が露骨に出てる。

一巻でさ。エリザベス・オブライエンってかなりムカつくキャラとして、描かれているんですよね。でっ、対照的に主人公のマギニスは魅力的だと描かれている。

でっ、面白いのがさ。オブライエンはわたしと違ってヒドイ子だと思っていると同時に。わたしは彼女と同じかもしれない、とマギニスは深層心理では恐れている。

今回さ、3回くらいさ。こいつら双子だよなって読者に明確にわかるような描写があるんですよ。その度にさ、マギニスやシルヴェスターははぐらかすんですよね。そんなことないとか、考えないようにしよう、とか。

でさ、本物のエリザベス、エリザベス・オブライエンが現れて。私たちは双子だ、と告げられた瞬間、マギニスはやっぱりと思うと同時に、自分がそれを知ることを恐れていたことを地の文で話しているんですよ。

マギニスはオブライエンと双子であると知りたくなかった。つまり、マギニスにとって、オブライエンとはシャドウの関係にあることを知りたくなかったんですよ。

男らしさと女らしさの呪い

シャドウとは、物語によくある法則です。

主人公がある目的に向かう場合、彼の前に立ちはだかる存在がいるとしたら。それは主人公のあったかもしれない未来や過去の姿。もう一人の自分を暗示するメタファーであったほうが盛り上がるんですよ。

マギニスとオブライエンはじつは出自が同じ、シャドウの関係なんです。

そうなると、どうなるかと言えばさ。マギニスとオブライエンの違いは環境やしつけのあるなしだけで。自分の性根は彼女と変わらないんじゃないかと思うんですね。

これがなぜ恐怖かと言えばですね。女性は外圧によって、今の自分ができているというのを認めたくないものだからですよ。それを認めることは恐怖なんです。

これ、俺の経験による偏見なんですけどね。

俺、昔、いじめられていてですね。いじめが終わった後。男性と女性のそれぞれに、「お前、俺のこといじめたやん」って言ったわけですよ。

するとさ、男性の場合は、あの時は周りもやってたからさ、とか。周囲の空気に流されたことを悪びれない。

でさ、逆に、女性の場合は、わたしはしていないって言うんですよ。

でっ、これしたやん、あれしたやんとか。事実を並べていくと。まず、その時、わたしはしてなかったとか。かわいそうだと思ったというわけじゃないですか。

事実確認していくと、過去の気持ちを改変する。

でっ、それも無理が効かなくなると、どんどん落ち込んでくって流れがあるんですけどね。

ある種の女性は、自分は自分の意思で生きているんだと思う人がいてさ。でも、実際はいろんな人の影響を受けて、自分というのができる。
でさ、その影響の存在を知った時に。
じゃあ、それをすべてなくしたらわたしは一体どうなるの。本当のわたしは醜いのではないかという恐怖が出てくる。

カタルシス

2巻はその気持ちが頂点に達した時に、救いが現れるってのが、カタルシスなんですね。

同じ顔の二人の女性がある危機的な状況に陥ったなか。王子様がやってくる。身代わり役をしていたヒロインがわたしこそがマギニスだと言いんたいんだけどさ。

たまたまアクシデントがあって、声が出ない。

そうしていると、もう一人のオブライエンがシルヴェスターに駆け寄るんですよ。

そんな違うのにって思った瞬間に、シルヴェスターはお前はマギニスじゃないって言って、本物に駆け寄る。

このへん、描写がきれいだし。ここまでの気持ちの盛り上げてからの解放も。限りなく理屈で積み上げてからの奇跡ってとこがシンゴジラの前半と後半っぽくてよかった。きれいなストーリーラインですね。ハウルの動く城のラストを思い出しますよ。

しかし、まだまだ謎を残している。3巻も引き続き追っていきます。