小説版星のカービィ『プププランドで大レース』について

著者:高瀬美恵
イラストレーター：苅野タウ
レーベル:角川つばさ文庫
発売日: 2018/2/15
出版社: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
ASIN: B078JVKGWK

あらすじ
カービィたちのくらすプププランドで、全宇宙にテレビ中継される大レースが開かれることになった!テレビ・プロデューサーを名乗るキザリオという男から、優勝者はなんでも好きなものがもらえると聞いて、カービィやデデデ大王たちはやる気まんまん!でも、キザリオの行動がどうも怪しく、謎の黒ずくめの男まであらわれて?レースの実況はウォーキー、解説はメタナイトでお送りします!優勝はだれの手に!?小学中級から。

プププランドの外から人が来る
外からやってきた変える者
変わらないカービィとワドルディ

プププランドの外から人が来る

今回はプププランドの住民、キャピィとウォーキーの視点ではじまります。

のどかな昼下がり、「長い長いおしゃべりの話題がようやくつきかけたとき」。
キャピィはプププランドに流れる巨大な化け物のうわさをはなす。すると、ウォーキーはプププランドにそんな巨大な怪物がいるはずない、と言って一蹴する。
そんななか、空からふだんはみないような豪華な宇宙船が降り立つ。慌てて、宇宙船のもとに行くとそこには一人の男がいる。彼の名はキザリオ、なんでもプププランドでテレビ番組をやるためにやって来たプロデューサーらしいのだが……

意味深な導入です。
まず、珍しいのが導入のカギを握るキャラがカービィやワドルディでなく、本来であれば端役のキャピィとウォーキー。
彼らはプププランドに住むふつうの人で、いわばプププランドの"日常"をあらわす存在です。
そんな"日常"が「長い長いおしゃべりの話題がようやくつきかけたとき」に、つまり退屈を感じはじめた時に外からやってきた者によって崩される。

外からやってきた者、キザリオは宇宙船から降りるなり、プププランドをなにもないたいくつなところだと愚痴る。
しかし、キャピィたちに話しかけられると、美しい星だと語る。
ここで内心と表向きでの態度の違いを見せることで、彼が嘘をつく人間であることが印象づけられ。プププランドの日常がこれから彼によって崩される危険性をぼくらは感じ取ります。

外からやってきた変える者

5巻はこれからプププランドに訪れる変化を予告するための巻です。
テレビプロデューサーを名乗るキザリオによって、プププランドはお祭り騒ぎ。彼の甘言にコロリと騙されたデデデ大王や住民たちもレースに参加します。
しかし、レースの内容がおかしい。激辛料理を食べさせたり、変な歌をうたったり、挙げ句の果てにはチョコのプールを泳いだり。不思議に思うも、みんな優勝したらもらえる豪華景品が欲しいのでその通りにします。

まるで宮沢賢治の『注文の多い料理店』ですね。つまり、今回は外部からのルールやマナーに支配されていく恐怖をコミカルに描いている。

これにより、プププランドはふだんは平和だけど外からの刺激には弱く変化しやすいことを示唆しており、6巻以降の展開を予期しているんです。

しかし、そんな変化の中でも変わらないものがある、というのをラストに提示しています。