そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『エルフに淫紋を付ける本』について

 今回は『エルフに淫紋を付ける本』について紹介します。

エルフに淫紋を付ける本 シルファの快楽堕ち冒険譚 (美少女文庫)

もくじ

どんな作品だったか

 ヒロインはエルフ。名前はシルファ。商人である主人公に淫紋をつけられている。二人はエルフの里に向かう旅の途中である。旅をしながら、エルフの里から盗まれた宝玉を探している。主人公は淫紋をつけたシルファに性行為を行う。シルファは最初はいやいやであったが、しだいに主人公のことを悪い感情を抱けなくなっている。
 本作は同人誌で人気のタイトルのノベライズです。そのため、この旅の道中にこんなことがありましたよ、という形式で書かれています。ワンピースの劇場版のようなつくりかたですね。原作を未読の僕にも楽しめる内容になっています。旅の途中で寄った街で、いつものようにエロい奉仕をさせられるシルファ。なんとか主人公をギャフンといわせるために行うあの手この手はコミカルで面白い。
 序盤は街で出会った魔法道具屋の老婆から、性行為目的の道具をエルフが買ったことによる珍騒動を描いている。ドラえもんなどを代表するひみつ道具ものは使用者の思惑とは違う方向に作用するものだ。そしてシルファにとってのアクシデントは読者にとってのサプライズとなります。
 中盤から、主人公がこの街を訪れた理由が明らかになる。この街にはエルフの里から持ち出された宝玉があるのだ。
 その宝玉を手に入れるために、主人公とシルファは宝玉があるとされる館の乱交パーティーに参加する。
 ここで普通にヤッて、解決というわけでなく。かなり捻った展開になる。ここがかなり面白かった。お決まりのように、主人公とシルファとのセックスシーン。その後で、暴走した宝玉による幻覚により、二人の関係がどういったものであるかをシルファは言葉を介さない形で問われてしまう。
 本作は同人誌のノベライズで、つまり、他の人の作品を別の人が世界観とキャラクターを借りて書いている形です。つまり、自分は主人公のことが好きなのか。淫紋を介したこの関係は従属関係なのか、恋愛関係なのか。そういった二人の関係に名前を付けることができないんです。それをしたら、同人誌の話に整合性を付けることができませんから。
 だから、幻覚という形で、ヒロインの願望を反映させたかのような幻を見せ、それでも自分はもとの関係のほうが好きだ、と思い、覚醒する。主人公にも同じような願望の表出とそれの否定があります。
 

未読でも面白いし、原作が読みたくなる。

 僕は今回、原作は未読でノベライズ版を読みました。未読でも楽しく読めました。
 タイトル通り、エルフに淫紋を付ける話ですから、それさえわかっていれば話の展開についていけないということがない。つまり、前知識がそこまで必要ではないんです。
 それでいて、原作の時間軸を意識して書いているのであろうこともわかるため。原作が読みたくなりました。
 原作がエルフの里を目指しながらヤることをヤるロードムービー形式の作品のため、過去にこんなことがあったという話を折り込みながらも新しい話を作り上げることができているんだな、と感じました。
 

そして、旅は続く

 1本の作品として読後感がよかったです。
 主人公をギャフンと言わせたいシルファ。そんな彼女が旅先で寄った街で老婆から魔法道具を購入する。しかし、どれも失敗ばかり。ここで出てくる老婆がいいキャラをしています。シルファは主人公との関係を変えたいと考え、老婆を頼りますが、老婆は、本当は今の関係のままでいることを望んでいるんじゃないか、と問います。
 もちろん、シルファは否定する。本作は同人誌のノベライズのため、原作で明言化されていないであろう二人の関係について言及するためにこの老婆が出てきたのだろうと考えられます。
 椿三十郎の「本当にいい刀はさやにおさまっているものですよ」やルパン三世の「なんて気持ちのいいひとたちなんだろう」というセリフを思い出しました。ストーリーのメインのキャラクターには言えないセリフをこの老婆が言っている気がしたため、彼女の立ち位置は読んでいて面白かったです。
 そして、中盤から主人公の目的が宝玉にあり、その宝玉が旅の障害として立ちはだかったところもよかった。この作品は主人公とシルファの二人だけの旅を描いたものです。そのため、そのへんの男性や女性キャラクターを出すとノイズになってしまう。そのため、無機物である宝玉が彼らに立ちはだかる壁となるのです。
 二人のやりとりや性行為は面白く、官能的でした。読み進めていくうちに、ストーリー展開の面白さもあった読み応えのある作品です。