そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『豚のレバーは加熱しろ』1巻から5巻について

 さて、本日紹介する作品はこちら、『豚のレバーは加熱しろ』1巻から5巻までを紹介します。

豚のレバーは加熱しろ(5回目) (電撃文庫)

もくじ

この作品ってどんなの?

 本シリーズはこんな話です。
 異世界転生者で、主人公は豚。現実世界で、豚のレバーを生で食べた主人公は倒れてしまう。気づくと、彼は豚小屋にいる1匹の豚になっていたのです。このままじゃと畜されてしまう。ブヒブヒと鳴いて助けを求めると、彼の声に気づく少女が現れる。彼女の名前はジェス。生き物の心が読めるイェスマと呼ばれる奴隷階級の女の子。ジェスに助けられたことに恩義を感じた主人公は、ジェスとの旅に同行する。そこで彼はこの世界の美しさとそれを支える理不尽の裏側を知ることになる。

ここがすごい!

 本作は他の異世界転生ものと比べると特異な点が多々ある。まず、奴隷階級のイェスマ。彼女たちは生き物の心を読むことができる。主人公である豚はしゃべることができない。しかし、ジェスに思考を読んでもらうことで意思疎通ができる。つまり一人称の地の文もジェスを含めたイェスマたちは知ることができるんです。これによるスケベな一人称語りをする主人公と、それにやんわりとつっこむジェスちゃんの掛け合いが可愛らしい。
 そして、一人称がやたらとコミカルな豚さんがかなりカッコいい。本作の主人公は豚であるがゆえに、できることよりもできないことのほうが多い。しかし、そのぶん問題に対しての解決法を提示する安楽椅子探偵としての役割をこなしています。
 なんらかの壁にぶつかって停滞したときに、豚が発想力で問題を解決する場面はカタルシスを感じます。
 さらに、ヒロインのジェスと豚との恋愛関係も本作の大きな魅力だ。
 ジェスと豚は巻を重ねるごとに、絆を育んでいき、その絆は友情関係を超えたものとなっていきます。
 しかし、二人は豚と人です。作中では豚から人に戻れる可能性も言及されていますが、前世ではヒョロガリであると自称する豚は、自分は彼女にはふさわしくないと考えている。ジェスはそう考えて距離を取ろうとする豚に気づくことができるからこそ、そこに踏み込んでいくいじらしさが読んでいてキュンとくるし、この関係は最終的にどうなるのだろうと気にならせるんです。
 また、世界観自体も大きな魅力だ。じつをいえば筆者はこの世界についてまだわかっていない。しかし、わからないけどわかりたいと思わせる魅力がある。それはジェスやセレスというこの世界でけなげに生きる魅力的な人物が支えているだけではない。この世界には理不尽がある。しかし、その理不尽が人工的であるということがわかるように描かれている。では、だれがなんのためにつくったのか? という問いが読者にページをめくらせる。これが単純な悪意だったら、わかりやすかったのだけれども、どこか優しさがあるように感じる。そこが不可解さを感じさせる。
 そして、巻ごとにわかったって気分にさせてくれる場面があるのですが、だいたいその巻のラストあたりで、そのわかったをひっくり返されるような事件だったり、新事実が出ることでわからなくさせられて、次の巻が読みたくなる。

これまでの巻ごとの魅力!

 では、1巻から4巻までの魅力について語ります。
 1巻では、豚になってしまったという不可解な理不尽に畳み掛けるように、この世界で虐げられるイェスマという存在、王国へ向かわなければいけないという謎の旅。しかも、その旅の途中でイェスマの目を狙う悪党がいて、それが黙認されているという理不尽が存在する。
 しかもそれらが不自然な不可解さでなく、作られたものであるように描かれている。
 この旅を通して、イェスマのジェスが主人公の豚にとっても、読者にとっても幸せになってほしいと願わずにはいられない大切な存在になっていく。1巻ではある大きな転換点とともに、主人公の役割は終わったように思われた。しかし、ある新事実により、ふたたびの旅立ちが運命づけられる。1巻で完結していると同時に大きなお物語の始まりにもなっている素晴らしい1巻だ。
 2巻では、ジェスと再会するも、ある障害により、二人の距離は物理的にも精神的にも離れてしまう。新キャラも多数登場することで、物語の世界観が広がる。そして、障害から解き放たれ、ようやく新たな関係のスタートラインに立ったところで、新たな敵の誕生。
 3巻では、まだ決定的な関係に踏み切れない二人のじれったい掛け合いを描きつつ、水面下で起きていた問題が浮かび上がって眼前に現れる。その問題に対して、解決の糸口をつかみ、解決のために動き出す。そして、問題は解決されたように思われるも、ここで大きな事件が。
 4巻では、その時のことがなかったかのようにジェスと豚の楽しい旅が描かれる。今までのシリアスな空気とは打って変わって、ラブコメ展開も多い楽しい旅だ。しかし読んでいて、読者は不安を感じている。3巻のラストの意味深な描写は何だったのか、それが明らかになるのはどのタイミングなのか。真実が明らかになったとき、4巻は物語の大きな転換点であったことを読者は知る。
 そして、最新巻の5巻となります。こちらは今までの展開で語られていた伏線を踏まえた大きな物語となりました。

最新巻はここが面白い!

 今回の話はある戦いに勝利するために、この世界の冥界的なところに豚とジェスと、1巻から登場するある過去を抱えた人物の3人が旅立ちます。この冥界が、今までの旅で出てきたキャラクターや舞台の裏世界みたいなところなんです。人間の心が生み出した世界みたいなとことで、だからこそ、今までの要素がその世界での問題を解決するための伏線になるんです。
 仕組みとしてはペルソナに近い。そして、この世界を旅することで、今まで気になってたこの世界の成り立ちや仕組みみたいなものがわかってくる。と、同時に2巻で明らかになった敵キャラとの戦いも激化していきます。

続きが気になる!

 5巻は最後の最後でこう来るか、という事件が起きます。この世界のわからない部分について5巻はかなり踏み込んで解説していてようやくいろいろなことがわかり、大きな障害を打倒し、問題解決の兆しが見えました。
 そうだったはずなのですが、最後の最後で明らかになった事実により、余計わからなくなっちゃったんですよね。
 早く6巻が読みたいです。本作品の次の巻が楽しみです。