そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『Vivy-Fluorite Eye,s Song』について

 今回は『Vivy-Fluorite Eye,s Song』について紹介する。
 2021年の春アニメの一つ。ストーリーにはあのリゼロの長月達平先生が関わっている。

 『Vivy-Fluorite Eye,s Song』は次のような話だ。
 舞台は未来。Aiが一般的に流用される世界。この世界ではAIは【一体につき一つの使命が与えられる】。
 AIの歌姫、ディーバ。彼女の使命は【歌でみんなを幸せにすること】。
 彼女の歌を聞きに来る人はまだ少ないが、ファンとなった一人の少女に支えられ、充実した日々を送っていた。
 そんななか、彼女の下に一体のAIが送り込まれる。
 彼の名はマツモト。彼は未来で起きるAIの反乱による人類の滅亡を阻止するために送り込まれた。
 彼の強制的な説得により、ディーバはマツモト共に人類の滅亡を阻止するために行動する。

 ストーリーは王道ですが、だからこそ、わかりやすく面白い。
 1話、2話の流れが素晴らしい。

 AIの反乱が起き、人類がAIに次々と殺される。人類は恐怖でおびえるが、AIは笑顔で無機質だ。恐怖に震えながら何者かかから逃げている女性。そこに、親切そうに「お困りですか」と声をかける一般男性。放心する女性に手を近づけると、そのまま頭を握り締め強靭な握力で潰してしまう。ある遊園地では、歌を歌うAIが燃え盛る炎の中で笑顔で踊りながら歌い出す。AIと人間の対立を、表情と行動で表している。そして、明るい曲が流れながらのグロテスクなシーンは私たちを恐怖に駆り立てる。
 この地獄絵図はなんだろう。なぜ、こんなことがおきてしまったのか。
 そう、疑問に思いながらも。まだ名前のわからない男性が研究所の中を逃げるシーンに切り替わる。
 だれかが走っている。確かな目的をもって。それだけで興味がそそられる。しかも、声優はあの子安だ。端役の一般人なわけがない。

 目的の場所にたどり着く。彼の眼の先には一人の女性がいる。とてもきれいな女性。しかし、眠っている。
 彼は彼女に懺悔する。こんなことになってしまってすまない。キミは私を恨むだろう。
 そして、彼の手によってボタンが押される。その次の瞬間、彼はAIによって殺された。

 なぜ、彼は女性に謝っているのか。なにが起きたのか。

 そういった疑問が後々のワクワクに変わる。つまり、これから何が起きるのかに変わるのだ。

 時間は巻き戻り、100年前へ。
 先ほど眠っていたはずの一人の女性が歌を歌っている。しかし、観客は4,5人程度。
 今日もお客さんがいなかったわね、と茶化す声に無機質な表情で返すきれいな女性。
 彼女の名はディーバ。この物語の主人公。

 ここで、僕らは彼女に不安を感じながら見てしまう。
 さっきまで、AIによる人類の虐殺をさんざん見たのだ。無機質な表情で、人を殺すAI。
 彼女も、同じく無機質な表情を見せる。そこに一抹の不安を感じる。

 しかし、その不安がじょじょにほぐれてくる。

 例えば、ディーバは初登場の場面で、無機質な表情でありながらも、アイドルの決めポーズをする。
 そのことをべつのAIに突っ込まれると、彼女は以前人間のアイドルがこれをやっていて盛り上がっていたのを見たから自分もやってみたというのだ。
 ここから、彼女が不器用ながらも人を楽しませたいのだ、というのがわかる。

 次に、楽屋裏でディーバを待っている少女が現れる。彼女はディーバのことをヴィヴィと呼んでいる。どうやら、彼女は迷子になっているところをディーバに助けられたらしい。彼女はディーバがいつかメインステージで歌うことを夢見ている。ディーヴァは彼女の夢をいつか叶える目標として約束する。

 この辺で、私たちは彼女のことを優しい人物であると認識します。

 ここまでで、主人公であるディーバの”変わらないと思われていた日常”を描いたうえで、マツモトという”日常を壊す訪問者”が現れる。
 彼は未来からやってきたAIで、さきほど私たちが見た最悪の未来を回避するために、100年前にタイムスリップしてディーバの下にやってくる。
 もちろんのことながら、100年後の未来からきたマツモトの言葉を信じないディーバ。

 マツモトは信じないディーバを信じさせるために、未来を予言する。

 それはAI人権運動を行う政治家が、数キロ先の公園でテロ目的で設置された爆弾によって重傷を負うという未来だ。

 それを聞いた、ディーバは走り出す。タイムリミットによる緊迫したシーン。
 走り方はAIであるのだと思わせるくらい重々しい。じつはこの動きの重さも後々の変化を示唆してたりする。

 見事、事件を解決。自分が未来から来た存在であることを証明したマツモトはディーバに、未来を変えるための計画への協力を申し出る。

 これが1話です。見てて、これは絶対面白いと確信できる。うまい1話になっている。

 AIが反乱が起きる未来がおこりうる世界観を強調させたうえで、ディーバに対するセーブザキャットがよくできている。

 セーブザキャットとは、ハリウッド映画の創作論で最も売れている本に書かれている法則だ。
 物語のヒーロとしての役割が求められるキャラクターは、序盤で猫を助けるなどの善行をする。これにより、このヒーローはいいやつだ、と好印象を持たせる。

 さらに、このセーブザキャットは、マツモトをきっかけに行われている点も上手い。
 これにより、ディーバは困っている人を見たらすぐに助けに行く優しい女性であると印象付けると同時に、マツモトはそうした未来を知りながらも、それすらも計画を遂行するための手駒として考える冷酷な存在であると私たちに印象付ける。そして、マツモトに対するこの予感は2話で確信に変わる。

 この物語はタイムパラドックスを扱ったSFでありながら、不本意な状態で組まれたバディものでもある。
 正反対な二人の対立、AIと人類の対立が物語の不確定要素として存在し、先の予測ができず答えを知りたいというワクワク感が私たちを惹きつける。

 そして、最悪の未来へ向けての100年の物語。その過程で、ディーバは様々なAIや人間と出会い、関係を深め、別れていく。

 どれも面白く、目が離せない。
 いつのまにか、不信感しかなかったマツモトに対しても、未来を変えるために目的を遂行する人物が、ディーバと心を通わすうちに成長していくところに好感を抱くようになる。

 そして、物語のラストに向っていくにつれ、貼られていた伏線が回収されていき、ディーバが下す決断に感動する自分がいる。

 とてもいいアニメだった。おすすめの作品だ。