そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

『友人キャラは大変ですか?』8巻と9巻について

 遠藤周作の著作に、『沈黙』という作品がある。日本にキリストを伝えにきた男が、弾圧にあい、ついには仮初とはいえ信仰を捨てさせられる話だ。

 キリスト教を捨てさせられることを本作によると転ぶというらしいのだが、主人公は厳しい拷問による転んでしまう。

 人生において、自分が抱えている信仰、思想がある時期において、それを捨てなければならない危機的な状況に陥る。こうした話はベタなストーリーラインとして存在する。

 嘘が得意な弁護士がある日、嘘がつけなくなってしまう『ライアーライアー』。お金にがめつい老人がクリスマスの奇跡により、優しさを取り戻す『クリスマスキャロル』。

 これらはハッピーエンドのお約束として最終的には自身の信仰を取り下げ、〈コロんでしまう〉場面がある。

 もちろん、『アイアンマン3』などのヒーロー映画では、その逆境をはねのいて再びヒーローとして戻ってくることがカタルシスになる作品もある。

 今回、紹介する作品の面白いところが、主人公が守るべき自身の信仰が、〈友人キャラ〉であるということだろう。

『友人キャラは大変ですか?』の8巻と9巻をまとめて読みました。相変わらず安定して面白いし、先の読めない展開でハラハラします。

 この作品の本筋は次のとおりです。

 主人公の名前は小林一郎。幼稚園の頃、桃太郎の舞台で脇役であるエリマキトカゲを熱演した彼は、その時の成功体験から、主人公の友人キャラに憧れるようになる。彼は小学校、中学校でもサッカー選手、学校一の不良などを主人公キャラにプロデュースしていきその想いを強めた。
 そんな中、小林は謎の転校生、火ノ森龍牙と出会う。一目みるなり、彼(?)に主人公としての素質を見抜いた小林は、周囲と距離を取ろうとする彼の親友になろうとする。
 小林の予想通り、火ノ森には魔神たちと戦う宿命があった。小林は火ノ森が影で魔神たちと戦うのを気づかないフリをしつつ、友人キャラとして振る舞う。
 しかし、ひょんなことから火ノ森の秘密を知っていることが本人に露見してしまう。それと同時にじつは火ノ森が女性であることも知ってしまい、小林は魔神たちとの戦いにメインキャラとして巻き込まれていく。

 8巻と9巻は、そんな魔神たちとの戦いが終わった後の話です。
 敵キャラとして、火ノ森と相対するはずであった天涼院阿義斗は、ソロモンの後継者として七十二柱の悪魔を従えて、魔界に侵撃します。

 8巻と9巻は魔界パートと人間界パートに分かれての話となります。

 小林としては第二部の物語が盛り上がるために、魔界での悪魔との戦いで、悪魔が死なないことを願うのですが。望みも虚しく悪魔は数を減らしていき、人間界ではコメディ色の強い日常パートが描かれます。

 そして、8巻の最後に小林の母が現れ、小林は衝撃の事実を知る。

 9巻では魔界に侵攻していた悪魔がようやく人間界にも現れ、火ノ森たちは戦うことになる。面白いのが、ここで出てくる悪魔たちが主人公たちの関わりの強い人物ばかりであること。当然のことながら、小林の望むようなシリアスな展開でなくコメディ色の強いバトルとなる。

 そして、戦いが進めば進むほど、小林は主人公としての素質を知ってしまう。今までよくわかってなかった部分が伏線だったことが明らかになる。

 この作品で気になるのがメタな視点で行動し、物語を動かそうとする小林が、周囲からの手助けを得るようになればなるほど。物語の中心人物になってしまうこと。つまり、主人公になってしまっているという矛盾が孕んでいることだ。そのことに、小林は気づいていない。

 本来の主人公である火ノ森にもピンチが訪れる。

 はたして物語はどうなるねか。続きが楽しみです。


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友人キャラは大変ですか?8 (ガガガ文庫)

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