さて、今回紹介する作品はこちら、『妹さえいればいい』の14巻です。
著者:平坂読@妹さえいればいい。最終巻2月18日発売 (@hirasakayomi) | Twitter
イラストレーター:カントク (@kantoku_5th) | Twitter
レーベル:ガガガ文庫
発売日: 2020年2月18日
出版社: 株式会社小学館
ISBN 978-4-09-451828-3
あらすじ
青春ラブコメ群像劇の到達点、堂々完結!!「アンチも編集者も俺以外の売れっ子も全員爆発しろ!」作家としてブレイクし、愛する人と結婚し、父親となっても、人は(特に作家は)そう簡単に聖人君子のように生まれ変わったりはしない。羽島伊月は今日も荒ぶりながら小説を書く。そんな彼を生温かく見つめる妹の千尋も、報われない片想いにいい加減疲れていて――。伊月、千尋、京、春斗、那由多、アシュリー、海津、蚕、刹那、撫子……時を経て大きく変わったり変わらなかったりする主人公達が、それぞれに掴む未来とは!? 青春ラブコメ群像劇の到達点、堂々完結!!
『妹さえいればいい』シリーズもついに最終回。
13巻でシリーズ全体での様々な呪いを解いたうえでの未来へと続く1文とともに、バトンを渡しました。
そのうえでの14巻は、読者の気になっていたキャラクターたちのその後がすべて描かれ、最後に胸の救うような展開とともに、幕を閉じる。
すべてがきれいにまとまったうえでの主人公の熱い激励は、創作に一度でも向き合ったことのあるものならば、その小さなともしびに熱いエールが注がれたことでしょう。
今回は、結婚した羽島伊月と可児那由多、海津とアシュリー、京と春斗の恋の行方、変わりゆく木曽撫子、羽島千尋のたどる道。だれもが自分の人生の主人公、だからこそ素晴らしいにあふれた本作の感想について語っていきます。
『妹さえいればいい』とは
『妹さえいればいい』とは、ライトノベル業界を中心にした青春ラブコメ群像劇です。
中心人物である羽島伊月はライトノベル作家。描くジャンルは妹もの。
彼の周りにはたくさんの人々がいる、その彼と大学が一緒であり、ひそかに思いを寄せていた白川京。
同じく、伊月に思いを寄せる可児那由多。
同じ時期にデビューし、彼にライバル心を抱く不破春斗。伊月の担当編集である土岐健次郎。
彼らのドタバタとした日常を離れたところから見守る弟の羽島千尋。
しかし、1巻のラストで千尋のある秘密が明らかになる。
千尋は女であることを隠しており、じつは弟でなく妹だったのだ。
さらには、税理士の八坂アシェリー、先輩作家の海津真騎那、漫画家の三国山蚕なども物語に登場する。
こうして、羽島伊月という一人のラノベ作家の日常を描きながらも、彼らの周囲の悩み、葛藤も描いていくことで、ライトノベル業界全体を一つの世界観として描ききっている。
完結済みのライトノベルでオススメはなにかと言われたら真っ先に挙げるだろう作品です。
一人一人のキャラクターが人間として完成しています。1巻1巻で伊月のラノベ作家として成功と失敗に一喜一憂するだけでなく、彼の周囲の人間関係の変化にも関心が行き、続きが気になっていきます。
大筋は羽島伊月の人生を描いた作品なので、群像劇だけど、今どうなってるのかわからないといったストレスがなく読める。それでいて、印象の薄いキャラがいない。世界がちゃんと描けている作品です。
では、14巻の感想に移ります。
結婚した羽島伊月と可児那由多、海津とアシェリー
13巻のラストで結婚した羽島伊月と可児那由多。そして、海津とアシェリー。
那由多は結婚したことにより、羽島和子となります。本作の地の文でも登場人物のリストでもその名で紹介されてますから、一瞬、だれやっけって思って、そうだ可児那由多かってなるんですよね。
そして、子供を見守るアシェリーと那由多を描き、彼女たちの会話から、子供を産んだことによる心境の変化が描かれています。
そこから、伊月と和子とのやりとりで、彼女が現在は作家としての意欲を失っており、引退を考えている胸がほのめかされます。
このへんは僕らの読みたい場面でありながら、羽島和子となった可児那由多に違和感を感じるように描かれているのが後々の展開の面白さにつながります。
さらに、生まれた子供たちは子供たち同士での関係をつくり、それが後々のifストーリーの伏線になっている。
京と春斗の恋の行方
そして、京と春との恋の行方。
これはシリーズ全体で気になっていたことですね。
『妹さえいればいい』の面白いところは、羽島伊月を魅力的な主人公だと思って読み進めていくうちに、サブキャラクターだと思っていた。不破春斗や白川京に共感し、応援したくなるように読者を誘導しています。
そのうえで、続きが読みたいと言う原動力になっていたのが京と春斗の恋の行方だった。
6巻で伊月と可児那由多が付き合ってからは特にそっちのほうに関心が持っていかれました。
特に9巻から羽島千尋が自分が妹であることを告げるか悩む描写がはいり、そこが解決したと思ったら、恋のライバルとして参加するってとこもかなりワクワクしましたから。
それがついに決着がつく。あいかわらず、ネットでのサブカルネタを拾いつつも、旅行の描写が具体的で、読者にシチュエーションを想像させられるすばらしい日常の中のドラマが描かれていました。
そのうえで、この恋が伊月と和子との関係に絡んだものになったのも熱い。
そう来たかって思いました。
だれもが自分の人生の主人公
誰もが自分の人生の主人公、本シリーズのテーマはこれでしょう。
月並みな言葉のハズなのに、シリーズを読み通すと、ここに納得感があって感動する。
本シリーズはライトノベル作家である羽島伊月の苦難を描きながら、彼に関わる登場人物たちの人生も描いている。
人生を描くとは、彼らなりの悩みや目標、そして、その時間軸での変化。願いや想いとは違う結果としてのリアルが描かれている。
そして、それが意外性でなく彼らが時を積み重ね、選択した結果であるという納得があり、それをたたえたくなる祝福が読者の中にあります。
その中でも、木曽撫子ちゃんが僕は好きでしたね。
70歳でデビューした木曽義弘の孫娘。彼とともに編集部にたびたび遊びに来ていて、さまざまな趣味に没頭し、体験や経験を得て成長していく。
彼女が変わっていく様には目が離せませんでした。14巻での撫子ちゃんも可愛かったし、さらに10年後の彼女も魅力的でした。本作の時間の移り変わりをキャラクター性として出していたところは魅力的です。
そして、さまざまなキャラクターたちのこれからを描いたうえでの羽島伊月の決断。ラストでのセリフ回しはカッコよかったですね。
創作に少しでも触れたことがある人はあそこで揺さぶられるんですよね。僕も久々に自分を出した作品を書きたいな~と思いました。
では、また平坂読さんの次回作を楽しみに待っています。
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●今回紹介した作品
- 作者:平坂 読
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2020/02/18
- メディア: 文庫
●本シリーズを読むときはこちらから
- 作者:平坂 読
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/03/18
- メディア: 文庫
●平坂読さんの作品
- 作者:平坂 読
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: Kindle版