そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

異世界のオトコ、拾いましたについて。

 今回紹介する作品はこちら、『異世界のオトコ、拾いました』です。

 あらすじ

異世界から迷い込んだ騎士を保護した優奈。1年後、彼の世界に2人でトリップしてしまう! 裕福な騎士が衣食住を全て与えてくれるけれど、何もせずにいるのは優奈の性に合わなくて…。

 

  キャラに感情移入させるための序盤の展開のしかた。現実世界での経験がそのまま恋愛の心理的障害になる転移の魅力をしっかり使ったストーリーライン。現実世界と異世界で逆転する年の差カップル話はかなりいいですね。読んでて楽しかったです。

 

 ホント、序盤がうまいんですよ。交通事故で両親と妹をともになくした幼い主人公、優奈。失意の彼女に待っていたのは多額の賠償金目当てで後見人になろうとする親戚たちの醜い争いだった。その後、叔母に引きとられるも、後から賠償金が自分のものにならないと知った叔母は彼女に冷たくあたるようになる。夏目漱石のこころだったら、このへんをながながと語って、だから先生は金で人は変わるんだと言っちゃうんだとなるんだけどさ。

 

 これは異世界転移だから。さらっと3ページくらいで説明してさ。これが後々の、異世界転移したあとのレニアスと優奈の恋愛の心理的障害になるわけなんですよ。

 

 優奈はキャバ嬢でさ。別の店に移る際に意図せず引きぬいてしまった上客について、逆恨みされたことでヤクザに追われてさ。危ないって思った時に異世界から現実世界に転移してしまったレニアスに助けられ。彼と一緒に暮らすようになる。

 

 これもさ、長くなるかと思ったら、50ページくらいしかなく、最小限の小噺だけいれてさ。しっかり二人の仲が深まったとこで、異世界に来ちゃったなんだよね。

 

 そこで明らかになるのがさ。じつは異世界と現実世界では暦の概念が違ってさ。17歳だと思ってたレニアスは、現実世界では27歳でさ。現実世界では21歳だった優奈は13歳になるんだよ。でさ、お前はまだ成人すらしてないんだって言われんだよ。俺、この発想スゲェなって思ったよ。

 

 でさ、優奈はレニアスの家で養女として暮らすんだよ。年上のおねぇさんだったのが急に光源氏の紫の上になっちゃうんだよ。

 この逆転もさ。読んでていいなと思った。

 でさ、こっからさ。序盤の優奈の生い立ちが効いてくるんだよね。彼女はお金を理由で叔母から冷たく扱われた。そんな彼女は今、後見人になっているレニアスも自分を見捨てるんじゃないかと思う。

 

 そんなことなくてさ、レニアスは優奈が成人したら結婚する気満々なんだよな。ここうまいよ。物理的な障害と心理的障害がうまく絡まってさ。すれ違いの恋が自然にできてんだから。

 

 その流れからさ。自立しようと彼女がバーをはじめるっていうさ。現実世界での知識を活かした異世界商売ものをちゃんと入れてきてるのがいいね。

 

 異世界転移の魅力を活かした、恋愛もの。ストーリーの組み立て方、設定のうまさに感服しました。