そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

重装令嬢モアネットについて

 

 さて、今回紹介する作品はこちら、『重装令嬢モアネット』です。

 

あらすじ

「お前みたいな醜い女と結婚するもんか!」幼い頃の婚約者の言葉がトラウマとなり、全身に鎧をまとった令嬢・モアネット。年頃になっても一人(と一匹)で暮らしていた。そんな時、元婚約者の王子とその護衛騎士・パーシヴァルがやって来る。なんでも、王子が不幸に見舞われ過ぎており、原因はモアネットの呪いだと告げられて…!?「素顔は見せません!」「この鉄塊が!」心は乙女の鉄塊が魅せる、究極のラブ・コメディ!

 

ゼロよりむしろマイナスからのスタート

 ラブコメディとして、かなりうまいつくりになってますよ。まず、「お前みたいな醜いオンナと結婚なんかするもんか!」と王子に言われたから、鎧を着ることにしましたってとこからはじまるんだけどさ。つまり、マイナスからのスタート。だからこそ、護衛騎士のパーシヴァルと関係が進んだ時にカタルシスを感じる。

 

 でさ、話の肝が王子さまにかけられた呪いをだれがかけたのか。その呪いを解こうって話なんですけどね。

 

 でも、それだとこんなこと言う王子なんかっていうヘイトが出る。それをですね。この作品では呪いで不幸に見舞われすぎる王子って属性を足すことで、そのヘイトをギャグに転換している。

 ざまぁって笑っているあいだに、現在の王子のひととなりを知っていき、一人の人間としてコメディの登場人物として楽しめるようになってくるんですよ。

 

 つまり、王子がいい感じに空気になってくれるんですね。

 

 荒木飛呂彦さんの自身の創作術を書いた本。『荒木飛呂彦の漫画術』でさ。マイナスの状態から少しずつステップアップするように書くのが王道的なおもしろさだって、荒木さん言ってるんですけどね。この作品も丁寧なヘイトとギャグのバランス調整で、うまくストーリーを動かしている。

 

呪いをだれがかけたのか

 で、読み進めていくとですね。どうやらモアネットは魔女の家系で一定期間呪いを解く札もつくれる。また、魔女は他にもいて同じ魔女が訪れたら歓迎しなくてはいけないらしいってのが僕らにもわかってきてですね。

 

 王子とパーシヴァルもですね。それじゃあ、隣国に別の魔女がいるからモアネット、俺たちと一緒に来てくれってはなしになるんですよ。

 

 虫がいいじゃねぇかってさ。僕から聞いた話じゃ思うじゃん。違うんですよ。読んでるとですね。こいつじつはいいやつなんじゃねえかなってうすうすおもうんですよ。

 うすうすってのはさ。つまり直接は言っていない。この王子、呪いかなんかで言わされたんだろうなってでっかい釣り針がさ。この作品にはゆらゆらと目の前でぶらさがってんだよ。

 

 そのくらい王子がいい人すぎるんだよな。あらすじを読んだ時はさ。俺様系をイメージしてたからさ。てっきり表紙の右上のヤツが王子かとおもうじゃん。ちがうんだよね、ネコを頭に乗せてるさ。細い目のヤツが王子なんだよ。

 

 だからこそ、違和感が生じる。モアネットの過去の出来事が本当に起きたのか。それはモアネットが感じた通りの出来事なのかって疑っちゃうんですね。

 

呪いを解く話  

 

(引用)

 彼の言わんとしていることは分かる。市街地で見たアレクシスに対する周囲の態度はあからさまを通り越し、なにか尋常ではないものを感じさせた。まるでアレクシスを囲む全ての人間が一晩にして入れ替わったようではないか。

 元々アレクシスに恨みがあったモアネットでさえ、これはおかしいと思えるほどなのだ。

 これも呪いか。だがどこまでが呪いなのか。

 

 誰が、誰を、いつから、どう、呪っていたのか。

 

 

 さいさん、言った通りこの話は呪いの話です。誰が呪いをかけたのか。誰を呪っていたのか。いつからか。どんな呪いか。この作品はそれを問い続けている。

 

 おもしろいのは、この作品で語られている呪いってのがさ。王子の不運の呪いみたいな直接的な意味合いだけでなく、重装令嬢モアネットのような。幼い頃のトラウマによる心理的な呪いも描いていることだ。

 

 モアネットの話は僕らにも身近な話なんですよ。

 

 今からたとえ話をふたつしますね。

 

 たとえばさ、政治家がちょっとしたことで炎上してさ。政治家やめるって話あるじゃないですか。でさ、何年かたった後さ。今のやつもそんな大したことないし変えなきゃよかったなとかおもうわけですよ。個人名出すとザワッとするから言わないけどさ。

 

 あるいはさ、クラスでさ。誰かがキミの悪口を言ったとしてさ。それがキミの知らないとこでひろまってさ。キミはそういう人間だったことになる。否定しても、もう遅い。まわりに言われるうちにその言葉はキミの心になじんで、キミ自身をそういう人間に変えてしまった。

 

 そういうことってない? 俺はありましたよ。

 

 この作品は、二つの話がどっちも同じだって言ってるようにみえるんですよね。政治家の噂はさ。じつは僕らの意思でやってるようで、それも権力争いの延長でさ。じつは誰かに動かされた形でその政治家をこき下ろす空気にされている。

 悪口によるクラスヒエラルキーの変化もさ。だれかがキミを悪くいようとしたわけなんだよ。

 この二つの話がさ、個人が、あるいは組織が誰かを貶めようとしているから起きる「呪い」という言葉の上では同じなんだ。そういう話なんですよね。

 

 

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

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重装令嬢モアネット (角川ビーンズ文庫)

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