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神島竜のそう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

医療魔術師は、もう限界ですについて

  さて、今週紹介する作品はこちら。『医療魔術師は、もう限界です!』。

 

あらすじ(amazon引用)

 天才医療魔術師のジークは今日も大量の命を救う。美人助手のオータムに優しく厳しく支えられ、睡眠を削り、体力も限界、それでも診療所には重症患者が列をなす。「先生、500人追加です!」「もう……限界です」

 

 物語の舞台と主人公のキャラのつくりかたがうまい作品ですよ。

 主人公は幼いころから天才の医療魔術師。彼は戦乱の絶えない二つの大国の間に診療所を構えているため、診療所には患者が絶えない。ゆえに眠れる時間がない。休みたいと嘆くも、そばには死んでも働けとののしる美人の助手がいる。しかし、女子も口では厳しい態度をとりつつも、心の中では主人公を尊敬していて……ってはなしなんですけどね。

 

 まず、この不眠不休で働いている状況ってのが今でいうとこのブラックなんですよね。休みたいけど休めない、寝させてほしいけど、眠れない。今の時代、僕らのほとんどが経験していることですよね。

 

 こういうのって、最近いろんな作品でもあるんですよ。だけど、だいたいが底意地の悪い上司がいるとか。こういう仕事しかないとかさ。社会だとか、個人とかのわかりやすい悪がいるはずっていう単純な図式で描かれている。

 

 でも、この話だと主人公が働かなきゃいけないことの理由に対して、こんなことをオータムが言ってるんですよ。

 

(『医療魔術師は、もう限界です!』から引用)

――ならば、そこに死にかけている子どもがいればあなたは助けないのか。仮に自分しか助けられないとして、助けを求める手を払いのけることなど果たしてできると言うのか。助けられるのならば、助けるに決まっている。

 医とは呪いだ。力がなければあきらめることもできよう。しかし、救うことのできる力があるのなら、それをしないことは罪となる。――

 

 つまり、ブラックがなぜ起きるかと言えば。その仕事ができるひとがそのひとしかいないからってのがあるんですよ。だからこそ、そうした仕事に対して安い給料が払われているってことをなんとかすべきで。プレミアムフライデーなどで法で仕事の量を制限するってことが必ずしも解決にはつながらない。それをしたら、表面上はホワイトに見えて、一部のひとにだけ仕事が集中してしまう最近世間で言われはじめたゼブラ企業をつくることになりかねないんですね。

 

 この作品の1巻の第1章のはなしのテーマが人を救える力をもった若者が、それゆえに過大な期待と責務を求められるって話でして。いわゆるアメコミでいうところの「大いなる力をもつものには大いなる責任が求められる」って奴ですね。

 

 本来だったら、感情移入できない才能をもったスーパーマンの悲哀ってのを。今の日本のブラックに置き換えていることでとっつきやすい話にしているんですよ。

 

 ちなみに、1章で、主人公は才能がありすぎるがゆえにその才能ゆえに降りかかるたくさんの仕事を抱えざる負えない状況を描いたうえで。2章ではその状況を改善するために大きな病院を建てて、主人公の技術を引き継ぐ後継を育てていこうって流れにつながっていってますので、今後、このテーマがどうオチつけていくのかは気になりますね。

 

 で、この作品のいいところはこのテーマがあくまでこの作品の魅力の半分ってとこですね。こういったシリアスもあるんだけど、じつは後半で作風が変わったのかっていうくらいラブコメのようそがある。つまり、銀魂みたいにシリアスとラブコメとのふり幅が大きいんですよ。

 

 それがオータムとジークとの恋愛ですね。表紙の女の子がさ、最初のページとカラーページで主人公を罵倒してるもんだから。俺、あんまヒロインに期待してなかったんだけどさ。先に進めば進むほどかわいく見えてくるよね。

  この作品、最初の第1章と第6章でぜんぜん話の雰囲気が変わっちゃうんですけどね。じつは主人公のジークの視点とオータムの視点を交互に移すことで、お互いに対する気持ちの変化をちゃんと書きながら。いい感じに盛り上がってきたとこで、噂好きのサリーの視点を使うことで第3者からみた二人のもどかしい関係ってのも描いててさ。シリアスやりながらもラブコメ着地するって無茶をさ。しっかり小技効かせてやりきってんだよね。

 

 この大技を1巻でやっとくとさ。なにがいいって、あとあと2巻以降でシリアス全開で話を進めても、コメディ全開で話を進める。あるいはその両方をまぜる。それがどっちもできるんですよね。

 

 俺、これの2巻出たら買うな、たぶん。

 おすすめの一冊なんでぜひどうぞ。

 

医療魔術師は、もう限界です! (ファンタジア文庫)

医療魔術師は、もう限界です! (ファンタジア文庫)