そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだについて

むかしさぁ、バトルロワイヤルって小説あったじゃないですか。

 

とつぜん、教室に集められたと思ったら、今からみなさんに殺し合いをしてもらいますって言われてさ。殺し合いをしていくってはなし。

友達同士だったり、兄弟だったり、仲悪かったり、いろんな人間関係がある中で極限の状態で戦わされるデスゲームの原点とされる話ですよ。

 

あの作品さ。映画化した後でさ。ある殺人事件が起きたときさ。少女がこんなことしたのはあの映画の影響だって言ってさ。叩かれてましたよね。まあよくあるテレビのオタク叩きっスよ。今もちょいちょいあるけど。むかしはもっと露骨でしたよね。

 

彼らの言い分ってのがさ。いわゆる子供たちってのはまだまだ何色でもない真っ白な布でさ。その布を自分たちがきれいだと思う色で塗りつぶせばさ。きれいな布になると思っていてさ。俺らのすきなものはその子供の成長の邪魔になる汚い何かだと思ってんですよね。

 

その言い分もわからなくはないんですよ。わからなくはないけどさ。それはあまりにも世界を単純に見すぎじゃないですか。

 

そもそも、教室の中でこれから殺しあえと言われたバトルロワイヤルというのがなんなのかといえばですよ。いわば、受験戦争の暗喩らしいんですよ。俺らってさ。多感な時期に、教室っていう狭い空間に閉じ込められてさ。勉強させられて。テストでほかのヤツよりいい成績をとって、ほかのヤツよりいい大学にいけってさ、そう仕向けられるような仕組みになってるじゃないですか。

 

だけど、教師は仲良くしろ。いじめはよくないって言うじゃないスっか。

 

その矛盾にさ。んなわきゃねーだろー!って大声出しちゃったあの作品だって、むかし『Bバージン』の作者の山田玲司先生がどっかで言ってましたよ。

 

ようはですよ。空気なんですよね。空気。

 

そのきれいな白い布をですよ。東京のビルの真上にでも垂らしてみてくださいよ。10年後にはめっちゃ汚れますよ。車の排気ガスで。

 

そう、排気ガスなんですよ。

 

俺らはな社会の汚れた空気を吸って生まれてきてるんですよ! こんな漫画あるから! こんな小説があるから! 映画があるから子供がヒトを殺すだ言いますがね! 逆だよ!社会やお前らのそういう空気があるから生まれてきてんですよ。俺たちゃな! みんな空気を吸って生まれてきてんだよ!

 

さて、第10回目はこの作品。『ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだ』。

 

あらすじ

 御宮星屑は、勇者として召喚されたいじめっ子・鳳崎遼生に巻き込まれる形で異世界に降り立つ。与えられた唯一の固有能力「悦覧者(アーカイブス)」は、世界に存在しているすべての書物を脳内で閲覧する能力だ。異世界でも執拗ないじめを受ける我らが「ゴミクズ」は、「悦覧者」を駆使してレベルを上げ、密かに、そして着々と勇者への復讐の準備を進めていく。愛するロリっ子たちと共に――。
異色の異世界ピカレスクファンタジー、開幕!

 

絵は表紙買いしたんですけど、中身は予想以上に面白かったですよ。

 

この世のありとあらゆる記録媒体にアクセスできる力。悦覧者を使って、レベルを一気に上げスキルを得ていく。何の力もない0の状態のステータスがどんどん上がって、スキルも増えていくのはみててワクワクする。この溜まっていく力の出どころがわかっているのも魅力なんだよな。

 

この作品さ。主人公の目的がいじめっ子に勇者への復讐なんだけどさ。その復讐の相手がスゲェ絵に描いたような嫌なヤツ。だからこそ、ホントはステータス上では格上の主人公に対して調子にのってるとこをみるとさ。いつか痛い目みるんだろうな、と思ってさ。ちょっとニヤニヤしちゃうね。

 

こうした異世界転生ものでお約束のステータス上昇の面白さも魅力なんだけどさ。さらにいいのは少女を隷属させる、あるいは親愛関係をつくっていくとこだね。

 

 ここがこの作品のひとを選ぶとこなんだけどさ。この作品はいじめられっ子が異世界でいじめっ子に復讐する話であると同時に、異世界にいる少女を隷属させる話なんですね。

 

ちなみに俺もこういうのは大好きだ。

 

で、この話に関して大事なのはですね。べつに僕らは加虐趣味、サディスティックだからいいっていってるわけじゃないんですよ。

 

重要なのは裏切られない状態にしたうえで関係を組み立てるってとこに安心感があると思うんですよね。

 

ネット小説が売れる法則ってのはいろいろあるんですけどね。そのなかでとうぶんはぶれないであろう原則なのが読んでてストレスを感じない、感じさせないことなんですよ。

 

 だからこそ恋愛を描くときも、ヒロインが主人公と破局したり、主人公以外の子と付き合う可能性ってのはできるだけ排除しなきゃいけない。

 

基本はヒロインが主人公のことがスゴイ好きってエピソードを押し出して押し切るんですけど。この作品の厄介なとこは主人公がいじめられていて。主人公の他にも、男性キャラがメインでいることなんですよね。ちょっとやそっとのことじゃだめだから契約ってのが大事なんですよ。

 

だからこの主従関係、逆でも構わないんですよ。たとえばゼロの使い魔とかは少女の奴隷になる話ですからね。絶対に離れない関係からはじまる、これが大事なんですね。

 

現に一巻は二人の少女を堕とす話だったんですが、二巻は一人の少女の下につく話で、ちょっとほのぼのしたりぴょんぴょんする場面もあるんですよ。

 

表紙の絵が象徴的ですね。一巻は主人公の手元で死んだ目で人形のようにおとなしくしている少女たち。二巻はツンとした少女に首をたれてその手にキスをしている絵。

 

この作品は自信を喪失していたいじめられっ子が異世界で復讐を決意する話であると同時に、そんな彼だからこその主従関係からはじまる関係構築の話でもあるんですよ。

 

三巻はやくでないかな。web版も更新してくれないかな。いつも楽しみにしてる作品です。

 

web版

http://ncode.syosetu.com/n8769bz/