そう、それが言いたかった

2010年にpixivではじめての処女作、『who are the hero』を投稿する。who are the heroを完結後は小説家になろうに移動。現在、思春期の少年、少女がゾンビたちが蹂躙する日本で戦う『エデンプロジェクト』と、はてなブログでネット小説書籍化本の批評ブログ、『そう、それがいいたかった』を更新中。

ネタバレ注意!ひるね姫を観ました

 ひるね姫を観ました。

 

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あらすじ

 高校生のココネはある夢を見ていた。それは自分がハートランドのお姫さまになる夢。お姫さまは魔法のタブレットで機械に命を吹きこむことができた。だけど、ハートランドの外から姫の力を狙うオニが現れ、国から危険視されたお姫さまは大臣からタブレットを奪われ、ガラスの塔に幽閉されることに。このままじゃダメだ。わたしが鬼を倒すんだ。そう奮起した彼女は、城の外に飛び出し、魔法の力で鬼を倒そうとするも……

 そこでココネは目を覚ます。最近、同じ夢を見るなと思うココネ。もうすぐ夏休みがはじまる一学期最期の学校の帰り道に、彼女は父が逮捕されたことを知る。そんななか、父がココネのスマホに残したメッセージは、タブレットを守れ。夢の中でみたタブレットと同じだと驚くココネに、一人の怪しげな男がタブレットを奪おうとする。その男の顔はお姫さまからタブレットを奪おうとした大臣その人だった。

 ココネの夢と現実がシンクロする時、父と母の隠された思い出が明らかになる!?

 

 まず絵がきれいなんですよ。けっこう複雑な話しだからラストまでちゃんとみないとよくわからなくなるんですけどね。

 

 女の子の動きだったり。ロボットの動き。ハートランドの描写。車の描きこみ。すべてが丁寧なので、話の中身を推測したり、読み取るまでかなり時間がかかるのに面白くみることができました。

 

 特にさ、ココネちゃんがメッチャ可愛いんだよね。目鼻立ちの整った美人さんでさ。でも、眠そうな時はキツネのように鋭くなる。顔立ちがお母さん似で目元はお父さん似なの。

 

 このへん、今回のはなしでは重要なんですよ。なんてったって、今回のはなしはココネちゃんのお父さんとお母さんの出会いの話ですからね。

 

 今回はネタバレしなきゃ話せない話ですから注意してくださいね。

 

 簡単に言うと思い出のマーニーだったんですよ。ココネが寝るたびに見る夢、それは幼い頃、お父さんが何度も話してくれたおとぎ話の内容だった。タイトルはエンシェンとハートランド、ココネはずっとその物語の主人公は自分だと思っていた。しかし、騒動の最中、現実とシンクロしつつある夢を通して、それがお母さんとお母さんの会社の話を寓話化したものであることを知るんです。

 

 ココネのお母さんは、ある自動車会社の娘さんでさ。ココネのおじいちゃんの跡を継ぐためにさ。アメリカの大学も出てるんだよ。んでさ、娘さんはさ。会社の未来のために自動運転技術を研究しようとしてたんだよ。だけど、おじいちゃんは大反対。ソフト屋に頭を下げるなど日本の自動車会社の破滅だ! もういい!  お前など会社から出て行けぇ! 

 って話になって、出ていったお母さんは一人で自動運転技術を研究しようとしたお父さんと出会い、仲間を得て、ココネを産んだ後で自動運転技術の実験中に死んじゃいましたって話らしいんだよ。

 

 自動車に命を吹きこむ魔法ってのがこの自動運転技術でさ。大臣はさ、この魔法を使ってさ。王座に、つまり社長の椅子に座ろうとしたってのが今回のはなしなんだよね。

 

 面白かったですよね。魔法だと思えたひとつひとつの出来事に理由があってさ。一人の少女が真実を知って大人になる。

 

 素晴らしい映画でした。

 

 

 

異空菓子処「ノンシュガー」について

 さて、今回紹介する作品はこちら、『異空菓子処「ノンシュガー」』です。

 

あらすじ(アマゾンから引用)

目が覚めると、知らない場所でした。いいえ、それどころか、私には一切の記憶がありません。覚えているのは、お菓子を作ることだけ。目の前に現れた案内人(?)は、悩みを抱えた人だけが迷い込むという、この不思議なお菓子屋さんで働くことで、記憶が戻るというのですが…。日常から少し外れた菓子処で、人とお菓子が紡ぐ物語。―さて、本日のお客様はどんな方でしょう?

 

 一つの舞台、一人の少女を中心とした短編集ですね。ほぼ同じ形式で書かれています。

 

 まず、一人の登場人物が現れる。その人はなにか悩んでいる。するとある日、その人は謎のお菓子屋の前に立っている。はて、こんなところに菓子屋があっただろうかと思うも、せっかくだからと店に入ると、一人の少女が。

 彼女は無料で一品、お菓子を振る舞う。食べたお客さんは少女と会話が弾み、つい自分の悩みを少女に喋る。

 すると少女はお客さんに出したお菓子になぞらえてお客さんの悩みを解決する手立てを語る。

 

 これ、何かと言えばさ。美味しんぼなんだよな。あれもさ、この〇〇みたいに俺も頑張るゼみたいな話、ときどきあるんですよね。

 

 ひとというのはさ。なにか悩みだったり、問題だったりをたとえ話にして語るってのはよくあるし、したがるもんなんだけどさ。この作品はそのたとえが上手いんだよね。

 

 それとさ、この話さ。お客さんの悩みを解決すればするほどさ。お店に材料が追加される仕組みになってるの。最初は卵と牛乳と砂糖しかなかったんですよ。そこから、バター、生クリーム、フルーツと話を追うごとに増えてくの。ネット小説特有のさ。積み重なっていく成果の可視化ってのもおさえているんですよね。

 

 材料が限られていて。お客さんの悩みを菓子で解決する。これさ、作者に豊富なお菓子の知識がないとなかなかできないんだよ。そこがさ、すごいんだよね。

 

 お菓子で人の悩みを解決する。その流れを繰り返しながら。明らかになっていくのが、少女は記憶をなくす前、なにをしていたのか。この謎の一本の軸にしている。

 

 甘いスィーツで心を溶かす人情話でありながら、自分とはなにかを問い続ける思春期の悩みをテーマにしている。そして、それの答えがさ。わたしのやりたいことってなにか。それは自分のお店でお客さんにお菓子を出すことにつながる。自分とはなにかを問い続けると、自分の好きなものに行き当たり、その好きなものを通しての人間関係で自分を知る。これ、僕らにもよくあることです。

 

 これはそういう話でさ。綺麗にまとまったいい作品でした。読んでて甘いもん食べたくなったもん。

 

 

 

 

重装令嬢モアネットについて

 

 さて、今回紹介する作品はこちら、『重装令嬢モアネット』です。

 

あらすじ

「お前みたいな醜い女と結婚するもんか!」幼い頃の婚約者の言葉がトラウマとなり、全身に鎧をまとった令嬢・モアネット。年頃になっても一人(と一匹)で暮らしていた。そんな時、元婚約者の王子とその護衛騎士・パーシヴァルがやって来る。なんでも、王子が不幸に見舞われ過ぎており、原因はモアネットの呪いだと告げられて…!?「素顔は見せません!」「この鉄塊が!」心は乙女の鉄塊が魅せる、究極のラブ・コメディ!

 

ゼロよりむしろマイナスからのスタート

 ラブコメディとして、かなりうまいつくりになってますよ。まず、「お前みたいな醜いオンナと結婚なんかするもんか!」と王子に言われたから、鎧を着ることにしましたってとこからはじまるんだけどさ。つまり、マイナスからのスタート。だからこそ、護衛騎士のパーシヴァルと関係が進んだ時にカタルシスを感じる。

 

 でさ、話の肝が王子さまにかけられた呪いをだれがかけたのか。その呪いを解こうって話なんですけどね。

 

 でも、それだとこんなこと言う王子なんかっていうヘイトが出る。それをですね。この作品では呪いで不幸に見舞われすぎる王子って属性を足すことで、そのヘイトをギャグに転換している。

 ざまぁって笑っているあいだに、現在の王子のひととなりを知っていき、一人の人間としてコメディの登場人物として楽しめるようになってくるんですよ。

 

 つまり、王子がいい感じに空気になってくれるんですね。

 

 荒木飛呂彦さんの自身の創作術を書いた本。『荒木飛呂彦の漫画術』でさ。マイナスの状態から少しずつステップアップするように書くのが王道的なおもしろさだって、荒木さん言ってるんですけどね。この作品も丁寧なヘイトとギャグのバランス調整で、うまくストーリーを動かしている。

 

呪いをだれがかけたのか

 で、読み進めていくとですね。どうやらモアネットは魔女の家系で一定期間呪いを解く札もつくれる。また、魔女は他にもいて同じ魔女が訪れたら歓迎しなくてはいけないらしいってのが僕らにもわかってきてですね。

 

 王子とパーシヴァルもですね。それじゃあ、隣国に別の魔女がいるからモアネット、俺たちと一緒に来てくれってはなしになるんですよ。

 

 虫がいいじゃねぇかってさ。僕から聞いた話じゃ思うじゃん。違うんですよ。読んでるとですね。こいつじつはいいやつなんじゃねえかなってうすうすおもうんですよ。

 うすうすってのはさ。つまり直接は言っていない。この王子、呪いかなんかで言わされたんだろうなってでっかい釣り針がさ。この作品にはゆらゆらと目の前でぶらさがってんだよ。

 

 そのくらい王子がいい人すぎるんだよな。あらすじを読んだ時はさ。俺様系をイメージしてたからさ。てっきり表紙の右上のヤツが王子かとおもうじゃん。ちがうんだよね、ネコを頭に乗せてるさ。細い目のヤツが王子なんだよ。

 

 だからこそ、違和感が生じる。モアネットの過去の出来事が本当に起きたのか。それはモアネットが感じた通りの出来事なのかって疑っちゃうんですね。

 

呪いを解く話  

 

(引用)

 彼の言わんとしていることは分かる。市街地で見たアレクシスに対する周囲の態度はあからさまを通り越し、なにか尋常ではないものを感じさせた。まるでアレクシスを囲む全ての人間が一晩にして入れ替わったようではないか。

 元々アレクシスに恨みがあったモアネットでさえ、これはおかしいと思えるほどなのだ。

 これも呪いか。だがどこまでが呪いなのか。

 

 誰が、誰を、いつから、どう、呪っていたのか。

 

 

 さいさん、言った通りこの話は呪いの話です。誰が呪いをかけたのか。誰を呪っていたのか。いつからか。どんな呪いか。この作品はそれを問い続けている。

 

 おもしろいのは、この作品で語られている呪いってのがさ。王子の不運の呪いみたいな直接的な意味合いだけでなく、重装令嬢モアネットのような。幼い頃のトラウマによる心理的な呪いも描いていることだ。

 

 モアネットの話は僕らにも身近な話なんですよ。

 

 今からたとえ話をふたつしますね。

 

 たとえばさ、政治家がちょっとしたことで炎上してさ。政治家やめるって話あるじゃないですか。でさ、何年かたった後さ。今のやつもそんな大したことないし変えなきゃよかったなとかおもうわけですよ。個人名出すとザワッとするから言わないけどさ。

 

 あるいはさ、クラスでさ。誰かがキミの悪口を言ったとしてさ。それがキミの知らないとこでひろまってさ。キミはそういう人間だったことになる。否定しても、もう遅い。まわりに言われるうちにその言葉はキミの心になじんで、キミ自身をそういう人間に変えてしまった。

 

 そういうことってない? 俺はありましたよ。

 

 この作品は、二つの話がどっちも同じだって言ってるようにみえるんですよね。政治家の噂はさ。じつは僕らの意思でやってるようで、それも権力争いの延長でさ。じつは誰かに動かされた形でその政治家をこき下ろす空気にされている。

 悪口によるクラスヒエラルキーの変化もさ。だれかがキミを悪くいようとしたわけなんだよ。

 この二つの話がさ、個人が、あるいは組織が誰かを貶めようとしているから起きる「呪い」という言葉の上では同じなんだ。そういう話なんですよね。

 

 

  

 

この勇者、俺TUEEEくせに慎重すぎる

 さて、今回紹介する作品は、『この勇者、俺TUEEEくせに慎重すぎる』です。

 

あらすじ

超ハードモードな世界の救済を担当することになった駄女神リスタ。チート級ステータスを持つ勇者・聖哉の召喚に成功したが、彼はありえないほど慎重で…?「鎧を三つ貰おう。着る用。スペア。そしてスペアが無くなった時のスペアだ」異常なストック確保だけに留まらず、レベルMAXになるまで自主トレし、スライム相手に全力で挑むほど用心深かった!そんな勇者と彼に振り回されまくる女神の冒険譚、開幕!

 

 文字通り、スペックが異様に高い俺TUEEEな勇者が、ありえないほどの慎重さで異世界を救う話です。

 『この勇者、俺TUEEEくせに慎重すぎる』で 注目すべき点は二つあります。一つは、女神の一人称によるおれTUEEEもので、二つめは作者が凄惨なグロ描写に重きを置いている点です。

 

女神の一人称による俺TUEEEもの

 この作品、最後まで女神の一人称で話が進むんですよ。他ではあまりみないですよね。

 

 女神のリスタは神でありながらもイケメンの主人公にこころを動かされたり。主人公にいいように使われてしまう。神であるのに人間味のあるいわゆる駄女神の属性を持つキャラクターです。主人公にふりまわされるこの子は読んでてかわいいです。

 

 リスタは、今まで異世界転生した勇者をサポートすることで、何度も世界を救った立場であるため、ふつうはそんなことしないだろっと主人公にツッコむことができる。つまり、異世界転生ものを読み慣れている僕らが乗れるキャラなんですね。

 

  であると同時に、駄女神属性をもつ彼女は。異世界転生もうええねん!って考える俺らが見下せるキャラでもあるんです。異世界転生もうええねんの話は下の記事でしています。

 

kamizimaryu1026.hatenablog.com

 

 異世界転生ものに食傷気味な僕らは、勇者だったらこうあるべきと考える女神のリスタに対して、こう思うんですね。いやいや、そんな上手くいかないって。俺が魔王だったら、スライム狩ってレベルあげるとこなんて待たねぇし。俺TUEEEとかないからと。異世界舐めんじゃねぇよと。

 

 異世界転生慣れしている駄女神と異世界舐めんじゃねぇよと入念に準備する勇者。二人のうちのどっちかに感情移入できるようにしているんですね。

 

作者の凄惨なグロ描写

  この作品でもう一つ目立つのがかなり踏みこんだグロ描写。描写というよりも、発想っと言った方が正しいですね。拷問のため生爪を剥がしたり、逆花火だったり。わりかし人が大量に死んだり、助けられるギリギリまで痛い目みてたりするんですよね。

 もともと、難易度S級の異世界を救わなきゃいけないどうしようってはなしだから、そのための絶望感を煽る演出なんだろうけどさ。このへん、ちょっとモヤっとしました。

 

 ただ、これをやりたいからこそ、慎重に行動する勇者というキャラクターが必要になってくるんだろうなとも考えられますよね。俺TUEEEで先を予測して動く勇者がいるからこそ、敵の残忍さをどんどんインフレさせることができる。ネット小説のセオリーである読者にストレスをかけないってとこと残忍な描写、絶望的状況のバランスってのをうまくギャグや主人公の俺TUEEEで釣り合いをとって描いています。

 

竜宮院聖哉(りゅうぐういん せいや)は何者か

  読んでいて気になるのが、召喚された勇者、竜宮院聖哉が何者かっですね。読んでいると、どうやらリスタの先輩であり、ベテラン女神のアリアドアは彼のことを知っているらしい。

 

 彼女は意味深なこと言ってるんですよね。

 

(引用)

「アリア。いつも本当にありがとう」

「いいのよ。このくらい。私が出来ることは何でもしてあげたいの。それが私のせめてもの……」

「……アリア?」

 真剣な表情で何事かを言いかけていたアリアは、そこで口をつぐんだ。

「いいえ。何でもないわ」

そしてアリアはいつものように優しく微笑んだ。

 

 私のせめてものって言いかけて、続く言葉といえばもちろん罪滅ぼしでしょう。作中でアリアドアは300の世界を救ったけど、一つだけ救えなかった世界があると言っている。このへんから察しがつくように。たぶんその救えなかった世界で召喚された勇者が竜宮院聖哉で、その経験から慎重すぎる異世界俺TUEEEをやっていると考えられますよね。

 

 この過去話がいつ明らかになるのか。これから楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ注意! ギャルスレイヤーだけどギャルしかいない世界に来たからギャルサーの王子になることにした


 カクヨムの書籍化ラッシュをきっかけにネット小説の紹介ブログをはじめてからはや2ヶ月。

 今日はネット小説でなく、最近出版されたライトノベルを紹介させてください。

 

 さて、今回紹介する作品はこちら、『ギャルスレイヤーだけどギャルしかいない世界に来たからギャルサーの王子になることにした』です。

 

あらすじ

伝説的カリスマギャルを姉に持つ奈々倉瑠衣。姉への複雑な思いはいつしか怒りに変わり、漆黒の『ギャルスレイヤー』として渋谷・原宿に降臨するようになる。ある日、願いが通じたのか突然渋谷・原宿が滅亡した・・・・・・。1台のプリクラ機を残して。ギャルの聖地化した『神のプリクラ』を破壊すべく三号玉の花火を持ち、原宿に立つギャルスレイヤー。しかし誤って自分に発射してしまい瑠衣は命を落としてしまう。その後転生をした瑠衣が目覚めたのはギャルしかいない異世界「サヴァンギャルド」だった。

 

 この作品の魅力はおもに三つ。

 独自の世界観と卓越した文章力、話の構成力です。

 

独自の世界観について

ギャルのカリスマ、マルコの圧倒的な女子力によってつくられたギャルのための世界、サヴァンギャルド。ファンタジーの世界にいるキャラが全員ギャルだったらって世界なんですけどね。その発想も尊いんだが、それを支える想像力がすごいんです。

 

この話さ。魔法って概念をさ。女子力って言い換えてんだけどさ。これの呪文なり魔法なりがカッコいいんだよ。

 

 たとえばさ、シェリリー・シュシュってキャラがいんだけどさ。その子さ。魔法使う時さ。この子の目の前にクリスタル製のドアが現れるの。そのドアをさ。蹴るように足突っ込むとさ、「膝丈までの長さのあるトップス。レギンスに描かれた、祈りの形に組まれた手が鎖に繋がれたようになっているワンポイント柄」になるんだよ。つまり、足がオシャレな服みたいな装備になってんだな。

 それの名前がさ。「シフォン地ショートトゥニカ。ゆる敬虔ティストなレギンスを添えて」。仮面ライダーとアイカツを混ぜたかのようなアクションに加えてのさ。オシャレなカフェの長いメニューっぽい服の名前を混ぜ合わせた技名!  小学生のころ、ウィンドウブレーカーってかっこいいよなって思ってた俺にとってはさ。マジパネェんだよ。

 他にもさ。ファンタジーをギャルに置きかえたらってのをかなりうまく描いてます。

 

 

卓越した文章力について

 とにかく文章力の高さがすごいですね。

 すべての描写が写真でなく、映像で書かれている。なのに一文一文が短い。すべての地の文がまるで洗練された俳句のようなんですよ。

 

引用その1

ミサが最後に振り返った時、そこに奈々倉瑠衣の姿は無かった。

窓の外へ吹きこぼれていたカーテンが、部屋の中に戻って来るところだった。

 

 ライトな文体で思春期の少年の心の揺れ動きを描く。最近じゃ、それだけがライトノベルの仕事ではないのだけれども。この作品は話と話をつなぐあいだの文もしっかり書いて絞るべきとこは絞り、キャラの動きっていうのもちゃんといれて書いているんですね。しかも、そのライトノベルの枠の中で濃淡を使いわけてきれいな風景描写、心理描写、キャラの関係性の変化を描いている。

 

引用その2

 ミサの瞳が、黄金を溶かすほどの熱さを宿しているように見える。

 金の装飾具達は、桜の花びらが舞う速度で、あるいは泥中に蓮が飲まれていくようにゆっくりと、降り注ぎ続けていた。

 

 一見すると、幻想的なシーン。だけど2回目で読むと。じつはキャラクターの心の闇や。その後の悲劇を予感させるような描写。ギャルスレイヤーは、ここぞって時にライトな文体でたくさんの意味を一つの文に圧縮している。そこがすごい。どこをめくっても名文がある。そこがこの作品のスゴイとこですよ。

 

 

話の構成力

あと、この物語を二度読んでも面白くさせているのが、 二章に書かれているハンバーガーのエピソード。序盤だとさ。一見、ライトノベルの一番シリアスな場面なんだろうなっておもうんですよ。違うんですよね、このエピソードがあることで作品全体をラストまで誤読させてしまい要因になってるんですよね。

 

  しかも、このエピソードが。後々の携帯小説のくだりをギャグとして読めるようにしてしまう。二章で兄弟間の確執の原因がハンバーガーにあると考えてしまうとさ。ついつい、あの時マルコはこう考えていたんだのほうに目がいってさ。後半のじつはもっと大事な部分を見落としてしまう。

 前後の文章で、一つの文章に対する意味合いが180度変わってしまうって手法をさ。あそこまで鮮やかに見せられるとはおもいませんでしたよ。

 

 話の構成、伏線の回収のしかたもきれいなんですよね。このはなしのこれ伏線だったんだうまいなってとこがさ。この5つなんだよ。

 

①自転車  一章

②ユーチューバー 一章

③ハンバーガー屋 二章

④携帯小説  七章

⑤イカスミピザ 八章

 

 これの伏線が回収されるのがさ。⑤が十章、④と③が十一章。②と①が終章。目次を直接書くとこう。

 

 

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 伏線が回収される流れが外側から内側に狭まっているように。入れ子型に回収されていくからさ。頭の中でゴッチャになんないんですよね。そこがさ、きれいなんですよね。

 

カテゴライズされない自分

 この話はさ。テーマもいいんですよね。弟と姉の和解。それがさ、ギャルとオタクとの和解になるかとおもいきや。じつは徹頭徹尾、一人の自意識の暴走。思春期の終わりを描いている。

 姉と弟のあいだで起きたさ。ギャグかと思っていた聖書のくだり。そこがさ、じつはさ主人公の闇の部分につながってんですよね。

 このへんがさ、涼宮ハルヒの一巻でやっていたアプローチをさ。別の形でやったなとおもいました。涼宮ハルヒはさ。特別な人になりたいと願いその延長線上で巨人を使って世界を壊す道を選ぶわけですね。この話の主人公もさ。姉に否定されて傷ついた三年間。それを継続させる形で宿ってしまった憎しみを肯定するために巨人を産んでしまう。じつは自分の闇と向き合う話だったんですよね。

 それで、最終的に主人公はその巨人を受け入れてさ。「女神も追ってこれない休日が、はじまる」。過去との決別ってのを神話で、しかもギャルでやってるってのがスゲーんだよな。

 

 

 

 

 

ネタバレ注意! LA LA LANDを観ました

 LA LA LANDを観ました。

 

 ネタバレがありますので気をつけてください。

 

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あらすじ

 女優を目指すミア、しかしオーディションには落ち続ける。そんななか、ジャズピアニストのセバスチャンに出会う。しだいに2人は恋に落ち、それぞれの夢に向かって歩き出す。

 

 人生のすべてがここにある。月並みな感想ですけど、そう思いました。

 

 最初、まず高速道路の渋滞からはじまるんですよね。みんなイライラした表情。そんななか一人の女性がウキウキとした表情で車の外へと出る。そしたらさ、車に乗ってるみんなも踊りだすんだよね。

 

 ここ、象徴的ですよね。みながみな、ハリウッドにきている。それは夢があるから。それはダンスだったり、楽器だったり。いろんな夢を叶えに俺たちはハリウッドに来たんだ。だけどさ、みんなが同じとこに向かってるから渋滞してるんですよね。夢に向かうエネルギッシュさと、停滞しているリアル。この二つがうまく混ざっている。

 

 この映画はミュージカルなわけなんですけどね。踊りだしたり、歌いだすのにちゃんと理由づけされている。それはこの瞬間、わたしには世界にはこのように見えているんだっていう主観によるリアルなんですよね。だからこそ、最後まで感情移入してみれてしまう。

 

 僕はさ。恋なんてしたことないけどさ。夢に向かう時だったり、むかしのことを思い出すだったりさ。恋をして、夢を叶えてみたいなさ、シチュエーション事態はさ。非現実的なんだけどさ。あいまあいまのさつらいときだったり、どうしようもない時のさ。心の動きはリアルなんだよ。そこが見ててツライんだよ!

 

 僕らが感動する時ってさ、最初に共感があるんだよね。この人は自分と同じだっていう共感がさ。でもさ、その後で泣く時ってさ。その共感を裏切られたときなんだよ。

 

 ミアはさ。夢を一度諦めようとするよね。自分には才能がないんだって言ってさ。田舎に帰るときさ。あんだけ渋滞してた道がさメッチャすいてんだよな。でもさ、セバスチャンがさ。ミアの実家に行くんだよ。ある監督が彼女の舞台を観ててさ。会いたいみたいなはなしでさ。

 

 んでさ、オーディションするわけじゃん。俺、あの辺のくだり好きでさ。その監督さんの撮りたい映画ってのがさ。脚本がなくてさ。俳優のそのときそのときの即興を撮るみたいなのなんだよな。それがいいよね。今までうまくいかなかったのが、脚本どおりにしゃべろうとしてたからでさ。じつはセバスチャンのおかげでさ。自分で脚本を書いて一人芝居をした。それが正しかった。

 

 でさ、オーディションの時に語るんだよな。祖母との思い出をさ。あの時さ、ああ、そういうことってあるよな〜って思ったよ。俺らにはさ。夢と一口で言ってもさ。そう簡単に語りきれるもんでもなくてさ。なにかしらのさ、エピソードがあったうえでさ。だからわたしには夢があるのって言うんだよな。

 

 この作品はさ。夢の話でありながらさ。その夢に向かうために人は自分のための記憶を、ストーリーを、映画を編集してしまう。

 

 それをさ、俺らに気づかせてしまう。残酷な映画なんだよ。

 

 最後さ、片方は女優に。もう片方はジャズバーのオーナーになったわけじゃん。しかも、ミアはさ。他の男と結婚してさ。セバスチャンのピアノ弾くわけだよ。

 

 そして思い出すあの頃。彼はあの時も寂しげにこの曲を弾いてたわ。思わず彼にかけより、素晴らしい曲だわ、と言いかけたその時、2人は幸せなキスをした。

 

 お前らは、これ、じつは実話なんですとのたまって書かれる携帯小説の登場人物かァァァァァ!

 

 そうなんだよ、その時、彼女(あるいは彼なのか!?)が思い出す記憶の数々はさ。スゲェ都合のいいように編纂されたラブストーリーなんだよ。それをみててさ、ちょっとわかると思う瞬間にくる俺の心の中のなにかが崩れてしまった気がする。

 

 俺らはさ、人生のさ、スゲェ上向きな瞬間にさ。なにかしらのストーリーをつくってさ。その先を進んでいこうっておもうんだよな。

 

 ミアもさ。わたしたちの人生って素晴らしいものだったよねってさ。今たっているところからさ。それまでのプラスだけを抜き出すことでさ。これからも頑張ろうってさ。2人はみつあって笑うわけだよ。

 

 でもさ、なんにもなれなかったやつがさ。このさ。どうしてひとは夢を抱き、それに敗れても幸せでいられるのかっていうさ。心の動きというか。仕組みというものをさ。知ってしまうとさ。俺は今までなにをしてたんだ。俺がやろうとしてたことの源は、モチベーションは、あの時の誓いは。脳みそが適当に、俺が都合のいいように編纂した映画に踊らされてただけなのかってさ。思わないでもなくはなくもないんだよ!

 

 だから俺は二度と観ないと思った。もう一度みて、夢って素敵ねの魔法をかけてもらおうなどという甘っちょろいことはしたくないと思った。

 

 たかがミュージカルだと思ったら痛い目みるからな。ホントにマジでさ。

 

 

 

 

ヒーローは眠らないについて ネタバレ注意!

  さて、今回紹介する作品はこちら、『ヒーローは眠らない』です。

 

 あらすじ

大手映像制作会社・東光で働く宮地麻由香は、ある日突然、子供向け特撮ヒーロードラマのプロデューサーに任命された。シリーズ人気は右肩下がり。視聴率次第で打ち切りもあり!?おまけに「あなたにとってヒーローとは?」なんて、いきなり言われても。スタッフ間の軋轢、スポンサーからの圧力、ネット炎上に監督の隠し事―数多のトラブルに晒されながら、番組成功のため奔走する麻由香は、果たしてヒーローを見つけられるのだろうか…?また明日頑張る元気をくれる、痛快ワーキングストーリー!

 

  まずお仕事ものとしての完成度の高さに驚きました。取材をしたのか、調べたのか。僕はテレビ業界には詳しくないのですが。戦勇を任された宮地さんや長門監督の書かれ方が。まるで実際にモデルがいるんじゃないかと勘ぐりたくなるくらい。人物像の描写が細かくて、自伝を読んでいるのかと錯覚しそうなくらいリアルなんですよ。

 

 戦勇のプロデューサーに任命され、監督、脚本家、キャスト、スタッフを集め、撮影に乗り出す。ここだけでもお仕事ものとしてはかなり完成度の作品として評価できる作品です。

 

 それでいて、この作品のすごいとこは、お仕事ものとみせかけて、じつはミステリーだったってとこですね。

 

 戦勇の関係者と思われる謎の人物、さかなによって行われるネット内への情報流出。しかもその存在は宮地プロデューサーに対するいわれのないバッシングへと発展し、最終的に驚愕の事実が発覚する。

 

 この後の犯人の正体が明らかになってきた時のさ。伏線の回収の仕方が上手いんですよね。本人の気にもしない所作がじつはこう受け取られていたっていうのがさ。人間の悪意みたいなのを浮き彫りにしたようにみえますよね。

 

 このお仕事ものだと思ったらミステリーでもあったってのがさ。この作品の面白いとこでもあるんだけどさ。じつはこれもヒーローは眠らないっていうこの作品のタイトルであり、テーマにもつながってるんですよね。

 

 このヒーローは眠らないってのはさ。コンテンツは眠らないとも言い換えられるんですよね。主人公の宮地プロデューサーの何気ない行動がさかなから恨まれる結果につながったり。長門監督のしたことが戦勇の新シリーズに影響したりさ。だれかがしたこと、つくったものというのはけっして消えることはなく。眠ったりしない。たしかにそこに存在し続けてだれかにメッセージを発し続ける。今回の話はそうした創作物に対する責任を宮地プロデューサーが持つようになる成長譚にも読めるんですよね。

 

 これは宮地プロデューサーだけのはなしじゃない。君がなんとなくつぶやいたことや。友だちと話したこと。君にとってはどうでもいいことでも誰かにとっては大きな影響を与えるかもしれない。

 

 僕のブログもだれかにとっての眠らないヒーローであってほしいと思ってます。

 

kakuyomu.jp

 

 

モアナと伝説の海観ました ネタバレ注意

 昨日、モアナと伝説の海を観ました。

 

あらすじ 

むかしむかし、半神マウイがティアナの心を奪うと、海は荒れ、闇が広がるようになった。それから行くねんのときが流れた。自分は海に選ばれたのだと気づいたモアナは病に伏せたタラの導きで、島を出て、ティアナの心を返すために旅に出る。

 

 ずっと海に心を惹かれていた少女、モアナ。だがモアナの父は彼女を海に出すことを認めない。このへん、ファインディングニモを思い出しましたね。

 

 外に出たい人、このままでいいと言い張る大人。だけれども高ぶる冒険心を止めることなどできるはずもなくて。

 そして決め手になるのが、祖先のはなし。そう遥か昔自分たちの祖先も旅に出たすえにここにたどり着いたんだ。だから自分も旅に出るんだと船を漕ぎだす。

 前半は島から出られなかったモアナが島から出ようと決意するまでのはなし。このへんかなり感動的でしたね。

 

 そして、彼女はマウイと出会う。マウイは自信満々で、自分は神でむかしからみんなのために頑張ってきたんだと歌い出す。ココナッツは自分が倒したさかなを埋めたら生えてきたし、神様から火を奪ってきた、太陽を縛ったから昼は長くなったんだ。俺は英雄なんだぜって歌なんですけどね。俺、この歌好きですよ。

 

 そんなモアナにマウイは言う。わたしとともに海を渡り、ティアナのこころを返しにいきなさいってね。モアナから、自分は今は英雄と呼ばれてないと知った彼は彼女に乗せられたかたちでティアナのこころを返しにいく。

 

 このマウイってキャラはさ。アメリカみたいでしたよね。開拓者スピリットってヤツでさ。イギリスからやってきた移民たち。彼らは原住民から奪うというかたちで発展してきた。最近まで俺は英雄なんだぜって思ってきた。だけれども、ちょっとまて違うんじゃないかってのがさ、スターウォーズから、もしかしたらもっとまえからそういうツッコミがあるのかもしれない。

 

 そうそう、ティアナのこころを返しに行く途中、火の悪魔ヘカテーの領土を越えるためにマウイが落とした釣り針を拾いに行くんですよね。あそこのさ、カニの歌も好きだった。深海の底でさ。そうさシャイニー、輝いてりゃいいのさって歌さ。いいよね。ホントは真っ暗闇にいるのに、宝石をつけて明るく見せるだから偽物のティアナのこころにだまされる。資本主義を皮肉ってそうだよな。

 

 そしてついにさ。火の悪魔、ヘカテーと対面だよ。マウイも必死で戦うんだけどさ。つい二人に意見が一致しなくてさ。一回負けるんだよね。でっ、マウイはいったん逃げる。

 

 モアナも自分は選ばれたものではないのではと思い。帰ろうとするも、祖母との対話でまた今度は一人でヘカテーに挑戦する。途中からマウイも参戦し、女性が戦いに送り出すかたちでなく一緒に戦うかたちになる。時代の流れを象徴してそうですよね。

 

 でさ、ここで驚きの事実でさ。ヘカテーはこころをなくしたティアナでさ。モアナは燃える彼女に迷いもせず向かい合うことで、ヘカテーの怒りの炎を沈め、こころをかえすんですよね。

 このへんでさ、ああ、この作品、アナと雪の女王だったんだって思いました。

 

 少しも寒くないわと言い出したエルサのこころをアナが溶かしたみたいにさ。こころを返して切れたティアナにさ、こころを返したモアナ。女性は傷つついてんだよ!って叫んでる映画を二本続けてみることになるとは思いませんでしたよ。

 

 たぶん今回の話はアメリカの開拓者スピリットと資本主義が手を組んでさ。失ったまるまるを取り戻そうって話なんだろう。

 

 アメリカに詳しくないからこのまるまるがわからないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

うさぎ強盗には死んでもらう

 

  さて、今回紹介する作品はこちら、『うさぎ強盗には死んでもらう』。

 

あらすじ

 京都左京区のマンション。空き巣に入った泥棒カップルは、痴話ゲンカ真っ最中だった。その向かいのオフィスビル屋上。青年は潜入した人身売買組織に、殺人を強要されていた。悪鬼蔓延る上海の外灘地区。最強の殺し屋は、今まさに亡き師匠の敵を追い詰めていた。そこから1200kmの広東省。田舎町のパブで、少年は23回目のチェックメイトを宣言した。伝説の賭博師“うさぎ強盗”が彼らの物語を繋ぐとき、驚愕のエンディングが訪れる!

 

 複数のキャラクターの視点で語られる作品で、話が進むうちに驚愕の真相が明らかになり、事件が解決されていく。キャラクターがごっちゃにならないようにちょっとずつ情報を開示して、最終的にひろがった事件をすべて解決して風呂敷をつつみきる。

 『蜘蛛ですがなにか』、『デュラララ』、『ドミノ』、伊坂幸太郎作品など、共通した形式の作品はたくさんありますね。すべてのキャラクターが主人公なりえるように書く必要もありますし、物語の流れを俯瞰して描く力必要になります。

 こういう形式の作品が、定期的にちょっとずつ更新されて、スマホやPCでみるカクヨムで投稿されて、見事大賞を受賞するってスゴイことですよ。

 

 登場人物がたくさんいるのに、それぞれのキャラをしっかりと立て、話の合間にしっかり区切りをいれているから、長編でありながら、短編集を読んでいるようなわかりやすさがあります。じつは全体を通して引き継がれる伏線を立てながらも、ちゃんと起承転結を小刻みに立ててるんですよ。

 

 それと、この作品、ミスリードが上手いんですよね。

 

 僕は、こう読めたかもしれないけどじつはこうでしたって、作品は苦手なんですけどね。今回、ミスリードだったんだって気づいたときにイラッとしなかったんですよ。あまりにも鮮やかにだましてくれたものだから、一流のマジシャンの手品をみたような気分で読み終えることができた。

 

 読み終わった後に、もう一回読むと、キャラのセリフだったり、地の文だったりもさ。別の意味合いで読めてしまう。一回目と二回目で作品の雰囲気が変わってしまう。そのくらいさ。この作品の構成ってのがさ。すごいんだよね。

 

 カクヨムの感想コーナーでさ。これはみんなに読んでほしい読むべき作品だって語っていた方がいたんですけどね。僕はこれは大げさでもなんでもなく、本当に今の若い子には読んでほしいと思いますよ。

 

 よくさ、読書をする意味ってのでさ。他人の気持ちをわかるために豊かな感受性をはぐくむためにあるんだってよく言うじゃないですか。

 それは違うってさ。僕らはみんな知っている。

 

 本を読んで他人の気持ちなんてわかるわけないんですよ。豊かな感受性だってそうです。でも、それでも本を読んだほうがいいのはさ。思春期だったあの頃の僕らができるだけはやく見つけたほうがいいってことがさ。あなたにしか見えないことがある、知れないことがあるってことなんですよ。

 

 複数のキャラの視点や思いが重なり合って、一つの大きな事象が明らかになる。本を読んでいるときだけは僕らは全知の神の視点となって、物事の流れを事件のあらましを知る権利を得られる。

 

 複数の視点が交差する作品で、大なり小なり共通して伝えたいことはさ。キミが見ている世界の裏側にはもっと面白い世界が広がっているかもしれないってことなんですよ。

 

 僕らはネットなり、テレビなりでさ。これこそが真実だって思いこまされている。そんなもんだからさ。俺らはさ、若いころからなにか冷めた感じになる。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』ってあったじゃないですか。普通ではないなにかになりたい、特別な何者でありたいと願う少女が、野球場に集まっている何万人の観客がありふれた普通の人で、そこにいる自分も普通なのではと考え、そこから抜け出すためにSOS団を立ち上げる。ハルヒを中心に考えるとそうじゃないですか。あれってさ、1巻だけを見るとさ。1人の少女が思春期の万能感を捨てようとした話でさ。そこにキョンがお前の知らない世界があるって言うことで、その思春期のきらきらとした物語が継続されるって話じゃないですか。

 

 あれのハルヒちゃんの知らない世界ってのが、超能力者や未来人、宇宙人なんだけどさ。ああいうさ、あるかもしんないよっていう、未知の知ってのをさ。広げていくってのがさ。真実があふれている情報社会では必要なことなんですよ。

 

 ウサギ強盗もさ。ラストに意外な人物がさ。一人の少女にさ。だいじょうぶ、キミは幸せになれるみたいなことをさ。言うじゃないですか。

 なぜあそこで、あの人が出てくるかといえばさ。あの人は作中で一番、作品内の事件から遠い存在で、つまりは読者である僕らに一番近い存在だからなんですよね。

 そんなあの人だからこそ。僕らは感情移入して目の前の少女に語り掛けることができる。少女がこれから会う人は、彼女が今まで会ってきた人とは違うひとで、キミはこれから自分が思っても見ないような幸せが訪れるんだよってことをさ。

 

 なぜそう思えるかといえばさ。ウサギ強盗の複数の視点を介しての物語を経験したことで全体を俯瞰した視点で見ることのできた僕らだからこそ、まだ何も知らないことがある少女に対して優越感をもって接することができるんですね。

 全知をもって、作中のキャラに対して抱く優越感ってのはさ。読書することでこそ、得られる優越感なんですよ。だいじょうぶ、君の知らないことがまだたくさんあるんだってキャラに対して抱く気持ち。こういうのを、読書した後に、自分に対しても言い聞かせる。

 

 そういうのって大事だと思うんだよなあ。

kakuyomu.jp

 

おめでとう、俺は美少女に進化したについて


さて、今回紹介する作品はこちら、『おめでとう、俺は美少女に進化した』

あらすじ
白いフリルのノースリーブにふわっとした膝丈のスカート、黒髪ロングの、ちょっと自分に自信がない人見知りな清楚系美少女コスプレイヤー・朝倉すばる。…“俺”である。そう、冴えない大学生の俺・鈴村将晴の友達にも家族にも絶対言えない秘密、それは女装コスプレ。あまりの完成度の高さに親友(男)の婚約者のフリをさせられ義理の弟と妹に惚れられイケメンに迫られ…ってこれハーレム?逆ハー?―俺の心の平穏は、いつ訪れる!?

 カクヨム書籍化作品も10作目です。今回は紹介するのは女装男子物です

 女装していることを秘密にしなければいけない主人公に、義理兄弟に惚れられてしまうことと幼馴染の小林稲葉の恋人のふりをするという二つの問題が起きる。それらを何とかしようとすると、別の問題も付随して、どんどんややこしいことになってどうすんだって話です。

 女装していることを隠さなければいけないっていう大きな問題があって。それゆえに誤解が広まり、雪だるま式に問題が大きくなるのが面白いですね。
 主人公の一人称のまま、複合的な事件が広がっていくとこもいいです。
 この作品、いろんなところで誤解が広がっていっていくんですけど、その場合、べつのキャラの視点が入ってもおかしくはないんですよね。でもそれはしない。この作品は主人公の視点のまま固定しながら、事態の深刻化をキャラの会話で主人公と僕らにわかるようにしている。

 あと、登場するキャラの濃さですね。ハーレム体質で修羅場に遭遇しやすい幼馴染。その幼馴染が好きなヤンデレ婚約者。幼馴染の姉が好きすぎて、それゆえに極端な行動に走る女の子。いっかい読むと、忘れられない濃いキャラの存在があります。
 そのキャラたちを全員腐らせずにうまく人間関係を整理していっているのはスゴイですよ。

 それと、美少女コスプレの好きな男の子を主人公にするだけあって、主人公がプレアデスとして活躍するまでの過程がかなり細かくしっかり書かれているんですよね。風が吹いたら桶屋が儲かるみたいにさ。複数の事件に対してさ。主人公がこういうことしたら、こうなってこうなったみたいなことをしっかり考えてある。だからこそ、いろんな事件が複合して起きてさ泥沼化しているわけなんだけど。最終的にはきれいにおさまるんだろうなっていう安心感があるんですよね。

 コメディを読んでいるはずなのに。作者、頭いいなって読んでて思います。
 
 後半出てきた一真さんが主人公とどうなっていくかも気になりますし。主人公のことを気に入った美咲さんの活躍も気になりますね。
 ぜひ、続きを書籍で読みたいです。 

勇者のパーティで、僕だけ二軍について

 さて、今回紹介する作品はこちら、『勇者のパーティで、僕だけ二軍!?』 

 

 あらすじ

 魔王討伐における人類の希望―勇者。そんな勇者が率いる最強パーティに、炊事・洗濯さらには買い出しを極めた選ばれし雑用がいた。彼の名はロキ。パーティで唯一の二軍である!「僕は雑用をするためにパーティに入ったわけじゃない!」女遊びに二日酔いとクズすぎる勇者のもと、くじけそうになりながらも一軍を夢見て剣の特訓を続けるロキ。そんなある日、自称・天才美少女魔法使いのルミナの二軍落ちをきっかけに、一軍の座をめぐる闇討ち上等なパーティ内戦争が勃発し―!?この物語は、ぼっちな二軍の少年がメンバーたちの信用を勝ち取り、クズ勇者への下克上を目指す冒険譚である! 

 

 底辺の主人公が努力して這い上がる。最悪の状態から強くなっていく話。こういうのって読んでてイライラするもんなんですけど。この作品はそれが少ないんですよね。勇者自体はクズである、ヒドイヤツだって感じなんですけど。その勇者の周りのヒロインはけっこう優しい子、かわいい子なんですよね。だから虐げられているというよりも庇護されているようにみえますから、あまりストレスを感じずに読めますよね。

 

 それとストーリ―の仕組みとして面白いのは。一見、わがままな勇者に振り回されている主人公なんだけどさ。じつはそのわがままによって、主人公が成長する機会が与えられている。このへん見ているとさ。これ、女王の教室なんじゃねぇかなって思うんですよね。

 

 女王の教室、もう10年くらい前のドラマですね。天海祐希演じる女王のような女教師、阿久津真矢と志田未来が演じる神田和美との学校内での闘争を描いた作品です。金八先生、GTO、ごくせんと、いろんな教師が出てきたわけなんだけどさ。秋葉でトラック突っ込んだとか。2000年にバトルロワイアルが映画化されたりさ。大人が子供がわからない。どういう教育すればいいんだって時に。厳しい時代になるからこそ、厳しい態度で接するんだっていう逆切れみたいな発想のドラマなんですけどね。ストーリーの作り方はうまいんですよね。

 

 阿久津真矢の恐ろしさ描きながらも、主人公たちのひたむきな努力、友情。心が上向きになるシーンを1話1話ちゃんといれながら、ラストあたりで心を折って、続きが見たいと思わせる。さすがは志田未来の出世作ですよ。この後で女王の教室のイメージをひきずった学校内の問題をわかったようなツラで描いたような作品が増えるんですけどね。かなり面白いドラマだった。

 

 これもストーリーラインは女王の教室と同じだと思うんですよね。かなりファンタジーとコメディ寄りではあるんですけど。

 

 この作品の主人公を二軍にしている勇者はさ、女遊びをしたり、パーティーのメンツを変えたり、主人公をボコボコにしたりとさ。読者からかなりヘイトをため込ませるようにイベントを重ねている。だけどさ、この勇者の行為で街にとどまったり、魔法使いが二軍になったりしたことがさ。まわりまわって主人公の成長につながってるんだよな。つまり、じつは勇者と主人公が作品全体でライバル関係でありながら、じつは師弟関係になるように書いてんじゃないかとも思うんだよな。

 

 この辺はさ、カクヨムに投稿されているほうだとちょっと違うんだけどさ。この作品がさ。カクヨムで出版された中で一番大幅に変更点が多い作品であることを留意するとさ。そうなりそうな話になっている気がするんですよね。

 

 2巻が出たら絶対買います。5月予定らしいんで、作者さんにはぜひとも続きを書いてほしいです。 

 

 

 

豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたいについて

  さて、今回紹介する作品はこちら、『豚侯爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい』。

 

あらすじ

大人気アニメ『シューヤ・マリオネット』には、嫌われ者が存在する。魔法学園に通うデニング公爵家三男こと豚公爵だ。そんな悪役に転生してしまった俺は、このままじゃバッドエンド直行!?…だけど熟知したアニメ知識と、『全属性の魔法使い』なんていう無双能力を駆使すれば、学園の人気者になって、運命も変わるハズ!そして、アニメの中では成し遂げられなかった豚公爵のささやかな願い―「おはようございます、スロウ様!」滅ぼされし大国のお姫様。今は俺の従者である愛しのシャーロットへ。君に相応しい男になって、告白してやるんだ。

 

 作品世界内に存在する架空のアニメの世界に転生する主人公。しかも転生した男はアニメの中では一番の嫌われ者。転生したアニメの世界の知識と未来を知っている主人公はそれを利用して嫌われ者から英雄へと変わっていく。その第一歩がこの前発売された1巻の内容です。

 

 パッと見、悪役令嬢転生ものの亜種なんですけど。悪役令嬢転生物のみそでもある「読者と主人公が知っているバットエンドを回避する」っていうカタルシスをいれながらさ。魔法科高校の劣等生みたいなさ。一般人からはダメな奴と思われたり、嘲笑されるんだけど。なぜかすごいやつにだけは主人公の価値がわかって。しかもいいタイミングで事件が起こって、それを主人公が解決してスゲェって言われるさ。「舐めてたアイツはスゴイヤツ」っていう王道が入ってますよね。

 

 作中でモブがさ、アイツはただの劣等生だろって言ってるのを見るとさ、主人公のことをよく知っている俺らはさ。うわ、コイツ舐めてるなってさ。何も知らないモブに対して優越感を感じるしさ。

 

 しかも、そのモブの前で主人公が大活躍してさ。なんだとって驚くモブを見て、ちょっとザマア!って思っちゃうんだよね。

 

 この作品もいい感じにこの爽快感と優越感をうまく作品にいれているんですよね。

 

  あと、もちろんヒロインも可愛いんですよね。シャーロットとかさ。1巻では影が薄いんだけどさ。主人公につくすドジでかわいい女の子って感じで可愛いよね。こういう悪役令嬢転生物の亜種が今まで書かれなかったのはさ。いわゆるさ、全ヒロインが別の男のおてつきの状態でスタートするからさ。今まで書かれなかったんだと思うんだけどさ。あんま気になんないしさ。

 

 これからもっと面白くなるぜって期待感を高めるための1巻って感じでもあるからさ。今から二巻が楽しみです。

 

 

ガチャにゆだねる異世界廃人生活について

  さて、今回紹介する作品はこちら、『ガチャにゆだねる異世界廃人生活』。

 

あらすじ

 ソシャゲガチャをこよなく愛する俺、来宮廻はスキルやアイテムが当たるガチャ能力を手に、異世界への転生を果たした。レアアイテムでの悠々自適ライフを期待していたんだけど、出るのは「たこ焼き1ヶ月分」や「土下座スキル」みたいなハズレばっかりで…こんなの異世界で役に立つワケないだろぉ!!しかも「町まで案内しなさい!お金は払うからお願いします!」迷子のポンコツ盗賊少女と出会ったことから、伝説の魔物退治やら、次々と面倒事に巻き込まれて!?―でも信じてる。全力でガチャりまくれば、いつかはSSRで理想の生活が出来るってな。ガチャ運任せの異世界物語、回転開始!

 

 ガチャを回すことでスキルやアイテムを手に入れる。しかし、どれも一見つかえないものばかり。そんなアイテムとスキルを使いこなしてあらゆる障害を突破する。スキルチートの王道を踏んでますね。そのうえで、このはなしにはどう読んでも無視できない作品があるんですよね。

 

 基本的なプロットがさ、こう。

 

(『ガチャにゆだねる異世界廃人生活』の基本ストーリー)

 異世界に転生した主人公。そのとき出会った盗賊とビナギ村に行く。しかし、盗賊には迷子癖があり、さまざまなトラブルを主人公に持ち込む。その過程でサディスティックな変態シスター、近距離魔法しか打てない魔術師が仲間となり、ビナギの村で一緒に住むようになる。

 

 見てわかるようにこれ、「この素晴らしい世界に祝福を」をけっこう意識して書いてるんですよ。

 

(『この素晴らしい世界に祝福を』の基本ストーリー)

 異世界に転生した主人公。一緒に転生した女神と始まりの街、アクセルに行く。しかし、女神はポンコツで、さまざまなトラブルを主人公に持ち込む。その過程でドエムなクルセイダ―、爆裂魔法しか打てない魔術師が仲間となり、アクセルで一緒に住むようになる。

 

 一回設定を文字で起こしてから、ちょっとずつ書き換えたんじゃないかってくらい似てますよね。しかもちゃんとべつの作品としての面白さを確立している。

 

 たとえるならさ。フェアリーテイルって、序盤はワンピースにメッチャ似ているけどさ。話進んでくごとに、フェアリーテイルもフェアリーテイル独自の面白さを確立してったじゃないですか。あれと同じでさ。パクリじゃなくて、勉強しているなっておもうんですよ。 

 

 この作品さ、3人の女の子が主人公と同棲することになるんだけどさ。今のところ、このすばと比べると恋愛要素は薄いんですよ。盗賊の子は若干主人公を意識している描写はあるんだけどさ。今のところはハーレムというよりもさ。恋愛のちょい前段階の友達のようなぬるま湯の関係を持続している感じなんですよね。ここいいよな。正直言ってさ、『僕は友達が少ない』とかさ、ハーレムゆえにどの女の子を選ぶとかあーだこーだとかさ。そういう展開さ、見飽きたとか以前にもう疲れたって思っちゃうんだよな。その点、こっちはちょうどいい。このすばも恋愛要素がうすいっちゃ、うすいんだけど、まだまだ熱いんだよな。もちろん、これからどうなるかわからないからさ。あくまで一巻ではここがよかったってはなしだよ。

 

 あとはさ、じつはこの主人公のマワルさ。このすばのカズマよりも安定した生活を過ごしてるのもいいよね。後半も冒険もしてるっちゃしてるんだけどさ。マワルの目的が魔王を倒すとかでなく、自分の能力であるガチャを引きまくることで。そのために得ポイントをためなければいけないって話だからさ。いい感じに女の子と適度な関係を保ちつつ、街の清掃したり、たこ焼き売ったりして、時々冒険するって感じがさ、いかにも異世界で普通にくらしてます感があるんですよね。

 

 読んでて、俺の好きな話でした。オススメです。

 

 

医療魔術師は、もう限界ですについて

  さて、今週紹介する作品はこちら。『医療魔術師は、もう限界です!』。

 

あらすじ(amazon引用)

 天才医療魔術師のジークは今日も大量の命を救う。美人助手のオータムに優しく厳しく支えられ、睡眠を削り、体力も限界、それでも診療所には重症患者が列をなす。「先生、500人追加です!」「もう……限界です」

 

 物語の舞台と主人公のキャラのつくりかたがうまい作品ですよ。

 主人公は幼いころから天才の医療魔術師。彼は戦乱の絶えない二つの大国の間に診療所を構えているため、診療所には患者が絶えない。ゆえに眠れる時間がない。休みたいと嘆くも、そばには死んでも働けとののしる美人の助手がいる。しかし、女子も口では厳しい態度をとりつつも、心の中では主人公を尊敬していて……ってはなしなんですけどね。

 

 まず、この不眠不休で働いている状況ってのが今でいうとこのブラックなんですよね。休みたいけど休めない、寝させてほしいけど、眠れない。今の時代、僕らのほとんどが経験していることですよね。

 

 こういうのって、最近いろんな作品でもあるんですよ。だけど、だいたいが底意地の悪い上司がいるとか。こういう仕事しかないとかさ。社会だとか、個人とかのわかりやすい悪がいるはずっていう単純な図式で描かれている。

 

 でも、この話だと主人公が働かなきゃいけないことの理由に対して、こんなことをオータムが言ってるんですよ。

 

(『医療魔術師は、もう限界です!』から引用)

――ならば、そこに死にかけている子どもがいればあなたは助けないのか。仮に自分しか助けられないとして、助けを求める手を払いのけることなど果たしてできると言うのか。助けられるのならば、助けるに決まっている。

 医とは呪いだ。力がなければあきらめることもできよう。しかし、救うことのできる力があるのなら、それをしないことは罪となる。――

 

 つまり、ブラックがなぜ起きるかと言えば。その仕事ができるひとがそのひとしかいないからってのがあるんですよ。だからこそ、そうした仕事に対して安い給料が払われているってことをなんとかすべきで。プレミアムフライデーなどで法で仕事の量を制限するってことが必ずしも解決にはつながらない。それをしたら、表面上はホワイトに見えて、一部のひとにだけ仕事が集中してしまう最近世間で言われはじめたゼブラ企業をつくることになりかねないんですね。

 

 この作品の1巻の第1章のはなしのテーマが人を救える力をもった若者が、それゆえに過大な期待と責務を求められるって話でして。いわゆるアメコミでいうところの「大いなる力をもつものには大いなる責任が求められる」って奴ですね。

 

 本来だったら、感情移入できない才能をもったスーパーマンの悲哀ってのを。今の日本のブラックに置き換えていることでとっつきやすい話にしているんですよ。

 

 ちなみに、1章で、主人公は才能がありすぎるがゆえにその才能ゆえに降りかかるたくさんの仕事を抱えざる負えない状況を描いたうえで。2章ではその状況を改善するために大きな病院を建てて、主人公の技術を引き継ぐ後継を育てていこうって流れにつながっていってますので、今後、このテーマがどうオチつけていくのかは気になりますね。

 

 で、この作品のいいところはこのテーマがあくまでこの作品の魅力の半分ってとこですね。こういったシリアスもあるんだけど、じつは後半で作風が変わったのかっていうくらいラブコメのようそがある。つまり、銀魂みたいにシリアスとラブコメとのふり幅が大きいんですよ。

 

 それがオータムとジークとの恋愛ですね。表紙の女の子がさ、最初のページとカラーページで主人公を罵倒してるもんだから。俺、あんまヒロインに期待してなかったんだけどさ。先に進めば進むほどかわいく見えてくるよね。

  この作品、最初の第1章と第6章でぜんぜん話の雰囲気が変わっちゃうんですけどね。じつは主人公のジークの視点とオータムの視点を交互に移すことで、お互いに対する気持ちの変化をちゃんと書きながら。いい感じに盛り上がってきたとこで、噂好きのサリーの視点を使うことで第3者からみた二人のもどかしい関係ってのも描いててさ。シリアスやりながらもラブコメ着地するって無茶をさ。しっかり小技効かせてやりきってんだよね。

 

 この大技を1巻でやっとくとさ。なにがいいって、あとあと2巻以降でシリアス全開で話を進めても、コメディ全開で話を進める。あるいはその両方をまぜる。それがどっちもできるんですよね。

 

 俺、これの2巻出たら買うな、たぶん。

 おすすめの一冊なんでぜひどうぞ。

 

 

アリの巣ダンジョンへようこそについて

 

 さて、今回紹介する作品はこちら、アリの巣ダンジョンへようこそです。 

 

あらすじ

目覚めると、俺は土壁に囲まれた部屋の中にいた。自分の名前も含めて過去をまったく思い出せないが、どうやらダンジョンマスターというものになってしまったらしい。自分の役割を果たそうと、さっそくダンジョンを作り始めるが、通路を掘るにもひと苦労。そこで考えたのが、アリのモンスターに掘らせることだった――無尽蔵に増えて、進化していくアリたちとともに、侵入者たちを撃退せよ! 「小説家になろう」発、大人気ダンジョン運営ファンタジー!

 

 ダンジョンをつくって、管理して、やってきた冒険者を倒す。 スマホの放置ゲーの面白さをそのままライトノベルにしたような作品です。

 

 面白いですよ。たとえば、モンスターに側に立つ話というのは、だいたいがなんだかんだ言って人間の味方、あるいは人間に近いエルフ、ドワーフなどの亜人の味方をするものなのでですが。この作品の主人公はダンジョンにやってきた人間を善悪とわず、殺している。

 

 冒険者の視点での話はつい彼らに感情移入してしまうくらい真に迫ったものがあります。

 

 だというのに、主人公視点での話は全体的に明るい。スマホの放置ゲーの面白さを描いているんですね。

 

 そう考えると、ヒロインを妖精にした点も上手い。人間たちに一番遠い人外をヒロインにしたことで、彼らを殺すことに罪悪感を感じないことに疑問が湧かない。

 

 二巻も読みたいです。